海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

すずめの戸締まり(新海誠監督・2022年)

君の名は。」「天気の子」の新海誠監督が、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる「扉」を閉める旅に出た少女の冒険と成長を描いた長編アニメーション。

九州で暮らす17歳の岩戸鈴芽(すずめ)は、扉を探しているという旅の青年・宗像草太と出会う。彼の後を追って山中の廃墟にたどり着いたすずめは、そこだけ崩壊から取り残されたかのようにたたずむ古びた扉を見つけ、引き寄せられるようにその扉に手を伸ばす。やがて、日本各地で次々と扉が開き始める。扉の向こう側からは災いがやって来るため、すずめは扉を閉める「戸締りの旅」に出ることに。数々の驚きや困難に見舞われながらも前へと進み続けるすずめだったが……。

「罪の声」「胸が鳴るのは君のせい」などに出演してきた若手俳優原菜乃華が、オーディションを経て主人公すずめ役の声優に抜てきされた。草太役はこれが声優初挑戦の「SixTONES」の松村北斗。そのほか、深津絵里染谷将太伊藤沙莉、花瀬琴音、松本白鸚らが声優を務め、新海作品常連の神木隆之介花澤香菜も出演。音楽も、新海監督と3度目のタッグとなる「RADWIMPS」が、作曲家の陣内一真とともに担当した。(https://eiga.com/movie/96308/より)

9.4/10.0

いまや名実ともに日本を代表するアニメーション監督となった新海誠の最新作。
ある意味では、東宝とタッグを組んだ「大メジャー配給3作目」とも言えると思うが、そうした流れ(文脈、、というとカッコつけすぎか)で見ると新海誠が長い時間をかけて「喪失」を描いているようにも思えた。

君の名は。』では惑星衝突、『天気の子』では気候変動(による都市の水没)と、作品を重ねるごとに新海誠は作中の「地球の危機」を現実的なものに寄せてきた。
本作ではついにというか、「東日本大震災」という実際の震災そのものを作品のモチーフに組み込んでいる

これは推測だが、新海誠はこれまでの作品をある種の「ステップ」として制作し*1、本作で満をじして震災を取り上げたような覚悟も伝わってくる。

そのほかにも本作は、これまでの作品と一線を画す要素が多くある。九州を起点とし、最後は岩手へとたどり着く「ロードムービー」として描かれている点だ。従来の執拗なまでの「東京フェチ」はなりを潜め、様々な「都市」とそこで暮らす人々の「生活」を背景に、鈴芽と草太の旅が描かれる。
糸森のような「ファンタジックな田舎」のような描写は極力排し、誰もがその街で生活していく様を描いていく。

こうした過去作との明確な違いが、本作のリアリティ具合を高めていると感じ、直近3作では一番好きな作品になった。

また本作を観ると、新海誠はあまり「死後の世界」を信じていないのかな、と感じた。
亡くなった人を弔うことは、あくまでも「生きている人=遺された人」のために行うことで、その人が悲しみを乗り越えることが最も重要である……という想いがラストの展開には込められているように感じる。

このような死生観(?)は人によって受け取り方は異なるかもしれないが、個人的には納得のいくものになっていた。

扱っている内容が結構ヘビーなので、見れば見るほど脚本の伏線に痺れる『君の名は。』のような中毒性があるかと言われると微妙だが、あくまでエンタメ作品として直球勝負しながらも、今の社会を背景とした監督本人のメッセージもしっかり込められており、今年のベストに入る作品かもしれない。

一点、リピートしづらい作品ゆえに仕方ないのかもしれないが、時期をずらして入場特典を変える、いわゆる「特典商法」に関しては少し残念に感じてしまった。

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*1:もちろん、各作品ごとに描きたいものがあったとは思うが