海辺にただようエトセトラ

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恋人はアンバー/Dating Amber(デビッド・フレイン監督・2020年)

1990年代アイルランドの保守的な田舎町を舞台に、期間限定で恋人のふりをすることになったゲイとレズビアンの高校生を描いた青春映画。

アイルランドで同性愛が違法でなくなってから2年後の1995年。同性愛者に対する差別や偏見が根強く残る田舎町で暮らす高校生エディは、自身がゲイであることを受け入れられずにいた。一方、エディのクラスメイトであるアンバーはレズビアンであることを隠して暮らしている。2人は卒業までの期間を平穏無事に過ごすため、周囲にセクシュアリティを悟られないようカップルを装うことに。性格も趣味も正反対の2人だったが、時にぶつかり合いながらも悩みや夢を語り合ううちに、互いにかけがえのない存在となっていく。

監督・脚本は「CURED キュアード」のデビッド・フレイン。(https://eiga.com/movie/97132/より)

8.8/10.0

監督の前作、『CURED』はその日の体調もあったのか見事に序盤から寝てしまって作品の感想すら持ち得なかったのだが、ゾンビものから青春ものとずいぶん幅広く作品を撮る監督なんだなと驚いた。しかも本作はかなり前評判も良い。

かなり抑圧的なアイルランドの田舎で「ゲイ=悪しきもの」と刷り込まれたエディは、自分の性自認に確信を持てない(持ちたくない)でいる。
映画の多くの部分はコメディタッチに描かれているので面白おかしく見えるのだけど、その演出が余計にLGBTへの排外的な態度をあらわにしてて胸が苦しくなる。

90年代のイギリスと言えばオアシス、ブラーを筆頭に「ブリットポップ」華やかなりし時代で、現代に通ずるカルチャーの源泉のようなイメージだけど、「男は高校で彼女を抱いて、卒業したら軍人になることが100点!」という価値観が常識とされていて非常に恐ろしく感じた。

互いに疎外感を感じるエディとアンバーが「偽装カップル」での交流を通じて友情を育んでいく過程はとても楽しげで美しいのだが、少しオチの付け方には難があるように感じた。

【以下、ネタバレ】

物語のラストで、エディは父親の職業でもある軍人への合格が決まり、入隊するために軍のトラックへ乗り込もうとするのだが、そこにアンバーが駆けつける。
彼女は親にレズビアンであることをカミングアウトしたことで街中にセクシャリティがバレてしまい、そのこともあってかダブリンで知り合った女子大生と恋愛関係を築く。

そのためエディとのカップルは解消し、疎遠になっていたのだが、明らかに軍人には向かないエディを心配し、自分が貯めていた貯金を渡し「この街から出て」と伝える。

もちろん、アンバーにとってエディは大事な友人の一人だろうが、そこまで差し出す必要があるのか少し疑問だった。本来この貯金はアンバーがロンドンに出るために貯めたお金で、アイルランドで恋人ができたため、地元を離れらないという事情もわからなくはないが「なおさらお金がいるだろ」と思ってしまった。

アンバーは自分の性的嗜好を受け入れ、結果伴侶を得た一方で、エディは心のどこかでゲイと認めきれず葛藤している。だからこそ街を出る必要があった……とも言えなくもないが、それにしてもなぁという気持ちだ。

ラストに疑問が残るものの、それまでの過程で描かれた物語は非常に良かったので、もったいない作品という印象だ。

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