海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

TENET テネット(2020年,クリストファー・ノーラン監督)

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ダークナイト」3部作や「インセプション」「インターステラー」など数々の話題作を送り出してきた鬼才クリストファー・ノーラン監督によるオリジナル脚本のアクションサスペンス超大作。「現在から未来に進む“時間のルール”から脱出する」というミッションを課せられた主人公が、第3次世界大戦に伴う人類滅亡の危機に立ち向かう姿を描く。主演は名優デンゼル・ワシントンの息子で、スパイク・リー監督がアカデミー脚色賞を受賞した「ブラック・クランズマン」で映画初主演を務めたジョン・デビッド・ワシントン。共演はロバート・パティンソンエリザベス・デビッキアーロン・テイラー=ジョンソンのほか、「ダンケルク」に続いてノーラン作品に参加となったケネス・ブラナー、そしてノーラン作品に欠かせないマイケル・ケインら。撮影のホイテ・バン・ホイテマ、美術のネイサン・クローリーなど、スタッフも過去にノーラン作品に参加してきた実力派が集い、音楽は「ブラックパンサー」でアカデミー賞を受賞したルドウィグ・ゴランソンがノーラン作品に初参加。(https://eiga.com/movie/92400/より)

7.5/10.0

まず大前提として、コロナ禍において超大作映画を公開した、監督はじめとする映画制作チームや配給会社の英断には惜しみない賛辞を送りたい。

世界的に有名な監督のビッグバジェット作をこの時期に公開するのは、ビジネスとしては正直辛い判断だろう。現状本作の世界興収は2.6億円のようだ。
リピート鑑賞必須の本作といえども、近年のノーラン作品に比べると興行的には振るわないように感じる。

それでも本作を公開に踏み切ったのは、間違いなく客足の途絶えた映画館への救済の意味合いが大きいだろう。自作の興収スコアよりも、映画館の食い扶持を優先したことは、映画ファンの端くれとして非常に感激する。
散々劇場で予告を流して大きなポップも立てただろうに、『ムーラン』を自社配信サービスに切り替えたディ●ニーにはノーランの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい気分だ

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閑話休題。そういった彼の映画愛を尊敬する一方で、本作が今年の個人トップ作になるかと言われると、正直微妙なところだ。
僕は本作を2回鑑賞した(パンフレットも購入した。こちらはとても読み応えのある「痒いところに手が届く」ものだった)。2回目はレーザーIMAXで鑑賞したのだが、話の筋がわかっていて再見すると非常に退屈だった。
理由はよくわからないが、本作は「アイデア先行型」の映画(まぁノーランはいつも、そういうスタイルで撮りたがっている節がある)で、そのアイデアを映像化するために穴埋め的にキャラクターやストーリーが紡がれているような気がする
だからこそ、ストーリーや人物にあまり重きが置かれていなく、退屈に感じたのかもしれない。

あまり書くとネタバレになってしまうが、まず主人公に個性が全くない。ひたすら降って湧いたミッションに3時間近く翻弄されるだけで、この主人公がなぜ訳のわからないミッションに没頭するのかがわからない。
主人公にあえて個性や背景を持たせなかったのは、観客にも同じように「ストーリーに巻き込まれた」ことを感じてもらうためだと思う。しかし、正直言って魅力に欠けるし、映画を動かすための器になってしまっている印象。
せめて本作のヒロインともいえるキャットを、初対面にも関わらず賢明に救おうとする明確な理由くらいは、どこかに入れてもよかったのではと思った。

また(個人的な見解になるが)、そもそも初見で映画の根幹がわからない作品は、映画作品としていかがなものかと感じている。*1
例えば『君の名は。』は物語の流れそのものは初見でわかるものの、2回目以降はその伏線だったり裏の設定なんかが見えてくるのが楽しくてリピート鑑賞が増えたのだと思う。
一方で本作は「リピートマスト」と言ってもいいくらい不親切な作りの映画となっているし、冒頭で明らかなミスリードががあるので余計に観客は混乱する。*2巻き戻し不能の劇場映画としては不満に思った。

最後にそもそもの作品のあり方が好みではなかった。僕は、いわゆる「奥深い作品」には2種類あると思っていて、

  • 作品内に広がる世界(裏設定についてなども)を読み解いていくもの
  • 作品が社会を反映していて、社会を読み解く材料となるもの

上記がそうであると考えている。*3

『TENET』はどちらかというと前者の要素が強く、今の社会を強く反映しているようには感じられなかった。武器商人かつ世界の破滅を望む悪役もなんだかチープで説得力もない。世界破滅の理由も聞いてみると「なんじゃそりゃ」って感じだし。

個人的に高く評価したいのは『ブラックパンサー』でも印象的な劇伴を提供していたLudwig Goranssonの音楽。ノーランお得意のハンス・ジマーはスケジュール的に発注ができなかったそうだが、いずれにしても彼の方がよかったと思う。
ラストの「挟み撃ち作戦」では逆行チームのシーンでは逆再生の音楽が流れていたりして、アイデアの斬新さに膝を打った。*4

そう、結局この映画はいかに「アイデアが斬新だ!」と驚く映画で、それを自分が求めていないのだから、こればかりは相性の問題なのだろうなと思う。

あとノーラン映画でよく言われるような「実際の物理学を脚本に反映させた」というような「知的作品」を思わせる宣伝文句などもミスリードを起こしていると思う。
もちろんそういう側面もあるのだろうけど、この監督は活劇に力を置いていて、実際は「脚本の緻密さ」は二の次ではないだろうか。

実際にパンフレットには「007シリーズ」を意識したと書かれているし。まぁ『ダンケルク』や『インターステラー 』よりは楽しめたかなという印象で僕の中では終わった。

www.youtube.com

*1:当然1回観ただけで全容を掴めた人もいるのだろうけど、そんな人10%もいないだろう

*2:もちろん「訳わからんけどすごいものを観た!」という感想で満足する人もいるだろうが

*3:この二つに綺麗に分かれるわけでなく、互いの要素が混ざり合っている作品の方が多いです。

*4:あと補足をするなら「バディ・ムービー」としてのエモさはビンビンに感じて、ラストはウルっときました。