海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

天気の子

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君の名は。」が歴史的な大ヒットを記録した新海誠監督が、天候の調和が狂っていく時代に、運命に翻弄されながらも自らの生き方を選択しようとする少年少女の姿を描いた長編アニメーション。離島から家出し、東京にやって来た高校生の帆高。生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく手に入れたのは、怪しげなオカルト雑誌のライターの仕事だった。そんな彼の今後を示唆するかのように、連日雨が振り続ける。ある日、帆高は都会の片隅で陽菜という少女に出会う。ある事情から小学生の弟と2人きりで暮らす彼女には、「祈る」ことで空を晴れにできる不思議な能力があり……。「兄に愛されすぎて困ってます」に出演した醍醐虎汰朗と「地獄少女」「Last Letter」など話題作への出演がひかえる森七菜という新鋭の2人が、帆高と陽菜の声をそれぞれ演じる。そのほかの出演に小栗旬、本田翼、平泉成梶裕貴倍賞千恵子ら。「君の名は。」に続いて川村元気が企画・プロデュース、田中将賀がキャラクターデザイン、ロックバンド「RADWIMPS」が音楽を担当。RADWIMPSが手がける主題歌には女性ボーカルとして女優の三浦透子が参加。(https://eiga.com/movie/90444/より)

7.2/10.0

空前絶後といってもいい大ヒットの『君の名は。』に続く新海誠作品ということで多くの人が期待を胸に来場しているであろう本作。そうなるとどうしても『君の名は。』と比較してしまうが、個人的には前作の方が好みだったなぁという印象だ。『君の名は。』は結局3回劇場で観たのだが、本作はあと1回劇場で観るのか果たして……といった感じ。

もちろん、本作の方が優れた表現も多くある。まずは東京の描写の幅広さ。作品の序盤では東京(新宿)を歩いて回れば絶対耳にする「求人広告バニラ」や「マンボー」の宣伝文句が作中でも響く。新海作品は風景のディテールの細かさに感動するのだが、今回は「音」まで描写するというアップデートを施している。

もう一つが「東京」という街への「心象的な移り変わり」を描いたこと。忠実に再現された東京で過ごす主人公の少年が、人との交流を重ねるうちに「東京」という街への印象を変えていく様子も丁寧に描かれる。詳しく書くとネタバレになってしまうが、今作の真の主人公は「東京」という街であると思う。
新海誠というと少しこじれた恋愛観(ヒロイン像)が作家の特徴に挙げられがちだが、個人的には執拗なまでの東京フェチ(新宿メイン)こそが彼の作家性だと改めて確信した。

他にも現在の社会を見据えたような描写が多かったことが印象に残った。
君の名は。』の高校生生活は、「糸守と東京」という二項対立でアニメ風なデフォルメがされていたが*1、本作は実在のインスタント食品やファーストフードを登場させ、ある種の「貧困」を描いている。『天気の子』はキャラ設定こそアニメめいたものになっているが、彼らがとあるシーンで大量のインスタント食品を前に「ごちそうだ!」と叫ぶシーンは楽しげながらも胸が痛くなる。

ラストの展開も色々と考えさせられる。「広く社会のために誰かが犠牲になるのか」「個人個人の幸せを追求すべきなのか」という二者択一の前に人はどうすべきか−−。格差が日に日に如実に現れてきたこの国で考えるべきイシューが本作の根幹にある。

そういったメッセージや卓越した表現方法が作品に込められている一方で、作品そのものの面白さには個人的には少し疑問が残る。お話そのものが『君の名は。』よりもジュブナイル向けに設定されているせいもあるのだろうが、拳銃の出るシーンは新海誠がこれまで描いて来た「東京のリアルさ」の中では異物感が激しかったり*2、各設定への説明不足が散見された。

さらには、

  • 大人びた年少キャラ
  • 世界の理を語り出す老人
  • 美人な年上キャラクター
  • 主人公に無理解な大人

など、まんま『君の名は。』と同じ役割のキャラクターが出てくるのもいかがなものか。RADWIMPSの曲も映画のテーマに沿った曲ではあるが既視感が強く、良くも悪くも前作の良い点を踏襲しすぎて新鮮味に欠けている。

夏休みということで洋画邦画問わず大作が上映されるこの期間、本作はIMAXなどの大スクリーンを軒並み占拠している状態だが、前作のような「リピート欲求」もさほど湧かないため、興行収入もどうなることやら……。

*1:東京住まいとはいえ、頻繁にカフェ巡りして散財できる経済観念はやばい。

*2:それも「従来の表現」を逸脱・更新しようとした結果とはいえ、チグハグな印象がある。