海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ミヒャエル・ハネケ監督作品 ショート感想集

昨年観た『ハッピーエンド』で、「なぜ今までスルーしていたのだろう!」というくらいミヒャエル・ハネケ監督ドンピシャだったので、代表的な過去作をレンタルで鑑賞。

前回の『響け!』シリーズの記事同様、ショート感想集をお届けします。
掲載は製作順。

ファニーゲーム(1997年)

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穏やかなある夏の午後。バカンスを過ごしに湖のほとりの別荘へ向かうショーバー一家。主のゲオルグ、妻のアナ、そして息子のショルシと愛犬のロルフィー。別荘に着き、台所で夕食の支度をするアナの元に、見知らぬ青年が訪れる。ペーターと名乗るその青年は、卵を分けてくれないかと申し出る。台所に入ったペータ-は、何気なく卵を割ったり、アナの携帯電話を水の中に落としたり、さり気なくアナを苛つかせる。そこへもうひとりの青年パウルが現れ、さらにアナを挑発。ゲオルグが仲裁に入るがパウルは逆にゴルフクラブでゲオルグの膝を打ち砕き、一家に言う。「明日の朝9時までにあなたたちを殺せるか否かゲームをしよう」。...(https://eiga.com/movie/51409/より)

8.4/10.0

とにかく、徹底して胸糞悪くなる映画。

今となってはカンヌ常連の高尚な芸術映画監督、みたいな立ち位置だけれど、「ここまで底意地の悪い映画を撮れるのか」という驚きの連続で、そりゃ映画祭で心の準備もしないまま観た人が中座するのも無理はない。

とはいえ、映画に仕掛けられた趣向はとても面白く、監禁する青年たちがカメラに向かって(=つまり観客に)「このまま終わるのでは、映画として退屈だろ?」と語りかけてギョッとさせたり、今風にいえばサノスもびっくりの仰天手法であるクライマックスシーンなど、かなりメタ的な演出が多い映画で、グイグイ観させる。

それにしても身動きの取れない家族に対して「明朝までにあなたたちを殺せるかゲームをしよう」って、そんなんお前らが勝つに決まってるだろ!!と、観た客全員が突っ込みを入れたと思う。
良くも悪くも観客の脳裏にこびりつく「厭な感じ」はハネケ映画の特徴だけれど、その「厭度」が純粋に結晶化した恐ろしい一本。

隠された記憶(2005年)

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ファニーゲーム」「ピアニスト」などで知られるミヒャエル・ハネケ監督の衝撃のサスペンス。テレビ局の人気キャスターは美しい妻と息子との幸せな生活を営んでいたが、ある日、送り主不明のビデオテープが届く。そこには彼の私生活を撮影した映像が収録されていた。その後もテープは何度も届き、届くたびによりプライベートな内容へとエスカレートしていく。主演は「八日目」「愛と宿命の泉」のダニエル・オートゥイユカンヌ国際映画祭監督賞受賞。(https://eiga.com/movie/1028/より)

8.7/10.0

ハネケ監督の得意ジャンルの一つである「サスペンス」の傑作。
やっぱりこの作品に関しても根底に流れるのは「厭」な感情で、今作でフォーカスされるのは主人公の人気キャスターの幼い頃の過ち。

おそらく大人になった人間の誰もが抱えている、「子供の頃の無邪気さゆえの罪」に関して、徹底的に突っ込んでいくハネケ監督の厭らしさよ。
本作で語られる「罪」は多くの民族が暮らすフランスならではの差別意識が生み出したものと考えがちだが、これも住む国に問わず起こりうる悪感情と怒りであろうなと、しみじみ自戒も込めながら鑑賞した。

白いリボン(2009年)

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「ピアニスト」「ファニーゲーム」などで知られるオーストリアの鬼才ミヒャエル・ハネケによるミステリー。第1次世界大戦直前の北ドイツを舞台に、教会や学校の指導でプロテスタントの教えを守って暮らしてきた小さな村の住人たちが、次々と起こる不可解な事故によって不穏な空気に包まれていく様子をモノクロ映像で描きだす。カンヌ国際映画祭パルム・ドールゴールデングローブ賞外国語映画賞をはじめ多数の映画賞を受賞。(https://eiga.com/movie/55299/より)

8.1/10.0

晴れてパルム・ドールに輝いた長編大作。閉鎖的な村を取り巻くおどろおどろしい怪事件と、世界情勢が薄くつながりを見せる構成は『隠された〜』にも通ずるものがあり、なおかつ物語の構成に関してはこちらの方が練られているので、必然的に評価は高くなるのだろうが、如何せんDVDでの視聴には向いていない作品

ながら見していた僕に非があるのだが、やたら登場人物は多くて人物同士の関係も上手く把握できなく、正直いくつか解説サイト(ブログ)を巡回して理解した部分もあったほど。

これが劇場での体験だったらまた大きく印象が変わったのだろうと思うと結構後悔している一本。名画座でのハネケ特集を待つのみだ……。

愛、アムール(2012年)

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ミヒャエル・ハネケ監督が、前作「白いリボン」(2009)に続き2作品連続でカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞し、第85回アカデミー賞では外国語映画賞も受賞したドラマ。妻が病に倒れたことで穏やかだった日常が変化していく老夫婦の姿を描く。音楽家夫婦のジョルジュとアンヌは、パリの高級アパルトマンで悠々自適な老後生活を送っていた。しかし、ある日突然、妻のアンヌが病に倒れ、手術も失敗して体が不自由になってしまう。ジョルジュは病院嫌いな妻の願いを聞き、車椅子生活になったアンヌを支えながら自宅で暮らすことを決意。2人はこれまでどおりの生活を続けようとするが、アンヌの病状は悪化していき……。(https://eiga.com/movie/58339/より)

9.2/10.0

驚異の2作品連続パルムドールの2本目。
超身もふたもない言い方をすると、「カンヌ版ミリオンダラー・ベイビーな本作。

すでにソフト化までされた現在ではオチも知れ渡っていて、僕も知った上で鑑賞したのだけれど、それでも“あのシーンは”強烈だった。

淡々としたカメラワークと演出でどぎついシーンを映し出すのは、ハネケ的な映像手法に思えるのだけれど、これが非常にリアリズムがあって個人的には好みだ。
だって、実際の人生で衝撃的なことが起こっても、(当たり前なんだが)僕らの主観の映像が急にドアップになることはない。そういう意味では、残酷なシーンも淡々と目の前を流れていってしまう無情さを表現しているハネケは、誠実な作家だなと感じる。

その誠実な姿勢*1が映像手法でなく、物語自体にも投影されたのがこの残酷な老老介護の現実をまざまざと見せる本作。

本当に当事者には『ファニー〜』以上に辛い出来事が克明にフィルムに残されている。
だけれど、いずれ年老いた人間には平等に訪れる現実でもある。

こんなところでした。

まだまだハネケ作品をコンプリートしたとは言えないので、引き続きソフトや名画座でチェックしたいと思います。

*1:『ファニー〜』のような作品では“悪趣味”に転じるのだけど