海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ミッドナインティーズ/mid90s(ジョナ・ヒル監督,2018年)

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ウルフ・オブ・ウォールストリート」などの俳優ジョナ・ヒルが初監督・脚本を手がけ、自身が少年時代を過ごした1990年代のロサンゼルスを舞台に、13歳の少年の成長を描いた青春ドラマ。シングルマザーの家庭で育った13歳の少年スティーヴィーは力の強い兄に負けてばかりで、早く大きくなって見返してやりたいと願っていた。そんなある日、街のスケートボードショップに出入りする少年たちと知り合ったスティーヴィーは、驚くほど自由で格好良い彼らに憧れを抱き、近づこうとするが……。「ルイスと不思議の時計」のサニー・スリッチが主演を務め、母を「ファンタスティック・ビースト」シリーズのキャサリン・ウォーターストン、兄を「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のルーカス・ヘッジズがそれぞれ演じる。(https://eiga.com/movie/90103/より)

8.0/10.0

タイトルの通り、90年台中盤を舞台にしたスケートムービー。
思春期の若者たちが、辛い現実から抜け出すための手段としてスケボーに乗り出し、心を解放させていく様子が描かれている。

スーファミのカセットや劇中で流れるヒップホップ……ぼんやりと憧れを抱いていた年代を忠実に再現したであろう本作は、観る人が観れば、まるでおもちゃ箱のような映画と言える。

ただ、一方で現代の価値観ではありえないようなホモフォビック、ミソジニーな発言がナチュラルに出てくるシーンもあり、そこには冷や水を浴びせられた気分になる。

「お礼を言う奴はオカマだ」

「(同世代の女子を指して)ビッチとやりまくろうぜ」

 というような台詞が出てくるが、この言葉たちの根底にあるのは「ホモソーシャル下での“男らしさ”の強要」だろう。
男らしかったらお礼は言わない(=ナヨナヨしない)、男らしければ女性を性的に消費することを厭わない……。

本来スケボー文化とは、社会が一方的に押し付けたルールや定義への反抗として存在するはずなのに、その社会にあるマッチョな文化を持ち込んでしまっている「矛盾」は、とても残念に感じた。*1

上記のことにも通ずるが、スケボーのコミュニティに「自浄作用」が働いていないのも問題に思える。
10代前半の主人公に酒やタバコを覚えさせて、処方薬とはいえドラッグすらも飲ましたりしている。
グループで最もスケボーがうまく、プロとしての活動を目指すレイはこうした行為に眉を潜めるが静止するわけでもない。活路を見出せなかった貧困層の少年たちが、なし崩し的に犯罪の道へ進んでしまう一歩を見た気がした。

もちろんこれらの描写は、90年代当時を忠実に再現するために必要なモノだったのかもしれない。ただ、2020年に90年代のものをそっくりそのまま撮って出してしまう姿勢は疑問だ。
本作はフィクションなのだから、それこそこういった現代とは相入れない考えについて批評できるキャラクターがいても良かったのでは? と思った。

※なんだかケチばかりつけてしまっているが、映画そのものはタイトにまとめあげられていてとても楽しめた。

*1:一応本編後半で「お礼を言うことは人として当然だろ」というやり取りがあるのだが……