海辺にただようエトセトラ

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ビール・ストリートの恋人たち/If Beale Street Could Talk

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「ムーンライト」でアカデミー作品賞を受賞したバリー・ジェンキンス監督が、1970年代ニューヨークのハーレムに生きる若い2人の愛と信念を描いたドラマ。ドキュメンタリー映画私はあなたのニグロではない」の原作でも知られる米黒人文学を代表する作家ジェームズ・ボールドウィンの小説「ビール・ストリートに口あらば」を映画化し、妊娠中の黒人女性が、身に覚えのない罪で逮捕された婚約者の無実を晴らそうと奔走する姿を描いた。オーディションで抜てきされた新人女優キキ・レインと、「栄光のランナー 1936ベルリン」のステファン・ジェームスが主人公カップルを演じ、主人公を支える母親役で出演したレジーナ・キングが第91回アカデミー賞助演女優賞に輝いた。(https://eiga.com/movie/90069/より)

9.7/10.0

監督の前作『ムーンライト』を愛した人たちなら間違いなく今年の1本になる、とても美しい映画だ。

『ムーンライト』で魅せた鮮やかな色使いは、本作では「カラーリスト」による色のフィルター効果のみならず、彼らの衣装にも及んでいる。
窮屈な生活を強いられても、彼らは服装に気を遣い、夕食後にはレコードをかけてダンスをする。「日常を豊かに過ごしたい」という黒人の矜持をひしひしと感じさせる映画だ。

物語の運び方も巧みだ。人によっては「退屈」と評されたムーンライトから一転して本作は「なぜファニーが逮捕されたのか」を、過去と現在を交互に映しながら観客に明かしていく。
事件の行方を物語は追う一方で、本作の主人公ティッシュの一人称によって描かれる黒人(女性)の置かれた立場も印象的だ。

彼女はデパートの香水売り場で働いている。彼女曰く「黒人女性が働いている方がデパートが先進的な売り場に見えるから」らしい。白人と黒人の客の違いを例に、黒人女性が不当な扱いを受けているかをわかるシーンは胸が苦しい。
しかしもう一方で、この映画を観る方には職場の「ある人物」のティッシュへの接し方の変化に注目してほしい。黒人のみならず、女性が不平等な立場にあったこと*1と、人の温かみに触れられる。

そう、やりきれない事件が物語の本筋なのだが、本作は「人の温かみ」も優しく描き出す。

「俺は愛し合う二人が好きなんだ。そこに人種はない」
「俺は母から生まれた息子だ。『人の違い』とは、『母親の違い』だけだ」

「この二人はうちのお得意さんだ。逮捕するなんて承知しないからね」

作中の脇を固めるキャラクターたちは、ハーレムという街が「司法」や「ルール」ではなく、「ひと」で成り立っていることを鮮やかに示している。

そんな人々の日常をあっけなく壊してしまう暴力的な権力は、アメリカのみならずどの国にもあからさまに見えるようになってきた。
そんな風潮に毅然と「No」を突きつけ、日々の生活を誇り高く営んでいく。そんな黒人たちの懸命な姿勢は、くじけそうな心に手を差し伸べてくれる。

*1:なお、差別は今も根深く続いているのだろうけど。