海辺にただようエトセトラ

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スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース/Spider-Man: Across the Spider-Verse(ホアキン・ドス・サントス ケンプ・パワーズ ジャスティン・K・トンプソン監督,2023年)

ピーター・パーカーの遺志を継いだ少年マイルス・モラレスを主人公に新たなスパイダーマンの誕生を描き、アカデミー長編アニメーション賞を受賞した2018年製作のアニメーション映画「スパイダーマン スパイダーバース」の続編。

マルチバースを自由に移動できるようになった世界。マイルスは久々に姿を現したグウェンに導かれ、あるユニバースを訪れる。そこにはスパイダーマン2099ことミゲル・オハラやピーター・B・パーカーら、さまざまなユニバースから選ばれたスパイダーマンたちが集結していた。愛する人と世界を同時に救うことができないというスパイダーマンの哀しき運命を突きつけられるマイルスだったが、それでも両方を守り抜くことを誓う。しかし運命を変えようとする彼の前に無数のスパイダーマンが立ちはだかり、スパイダーマン同士の戦いが幕を開ける。

オリジナル英語版ではシャメイク・ムーアが主人公マイルス、ヘイリー・スタインフェルドがグウェン、オスカー・アイザックがミゲルの声を担当。(https://eiga.com/movie/96269/より)

9.7/10.0

スパイダーマンファンの自分にとっては本当に待ちに待った新作。というか2年前に超傑作『ノー・ウェイ・ホーム』を観たばかりなのに、「もう新作スパイダーマンを観せてくれるんですか!?」と言いたくなるありがたい状況に感謝。

特に本作は、アニメーション映画としても完全に歴史を塗り替えたといっても過言でない『スパイダーバース』の新作となるので、期待値もマックスで劇場に足を運んだ。

結論から言えば、そうした期待に十分応えてくれた傑作と言い切ってしまって問題ないと思う。

まず本作は前作から格段にアニメーション表現の幅が広がっている。
というのも、主人公マイルスが生活するバースと、他のスパイダーマンが暮らすバースでは世界の成り立たせ方が異なるため、その違いを映像で巧みに表現しているのだ。

例えば冒頭は、本来はヒロインであるグウェンがスパイダーウーマンとして活動している世界。ここは、まるでピーターを失ったグウェンの心情を表現するような、淡くセンチメンタルさを感じさせる色で世界が構築されている。*1

それは当然別バースから来たヴィランにも言えることで、序盤に出てくる「ダ・ヴィンチのスケッチ(?)で構築された世界」から次元の歪みでグウェンのバースに来てしまったバルチャーの作画は見事(鉛筆的な素描なのに、滑らかに動き回るバルチャーの作画はいったいどうやって成立しているのか、、、)。

「ポップであること」と「先進的であること」を高次元に両立させたエンターテイメントを終始堪能できる。

またストーリーも見応えがある。
平たく言うと、「少年であるマイルスが大人になっていく」物語である。両親を失い挙句に育ての親も失ったピーターと違い、両親が健在なマイルスはまだ親離れ/子離れできない様子が描かれていて微笑ましい。
一方でスパイダーマンである以上、肉親との別れは常なのだが果たして……と言うところが今作の肝。来年公開予定の後編で完結となるため、ニクいクリフハンガーで本作は終えるのだが、このアニメーションをもう一本分体験できることが確約されていることに感謝したい。

基本的に文句のない大傑作なのだが、一点だけ。
とある部分でのマイルスの逃亡シーンが、アニメーションの演出も非常に凝っていて製作陣がそのアイデアを余さず見せたいのはわかるのだが、如何せん少し冗長に感じた(他にも各シーンで若干ダレているように思えた)。
すでに僕は3回観たのだけど、これは初回から変わらず抱いた感想になる。

ただ、後編は本作以上に長くなることは間違い無いので、若干の不安要素でもある。

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*1:前作でも、スパイダーノワールの世界は白黒のみで構成されている……などの表現はあったが、今作ではより深く表現されている