海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

「響け!」シリーズ劇場版 ショート感想集

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京都アニメーションが制作した、弱小高校吹奏楽部が全国コンクールを目指す『響け! ユーフォニアム』シリーズの最新作が公開された。*1
昨年公開された番外編とも言える『リズと青い鳥』をレンタルで視聴したところ、とてつもなく素晴らしい作品だったので劇場版過去2作も視聴し、最新作である『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』も劇場で鑑賞。

以前吹奏楽部の知り合いに、「吹奏楽部は運動部と文化部の嫌な部分が合わさっためんどくさい部活」と聞いていたのだが、本シリーズも確かにそういった側面が描かれたりもしていて、いわゆる「萌え」一辺倒な作風ではないので普段アニメーションを観ない人でも楽しめると思う。

残念ながらアニメシリーズは未見なのだが、各作品の感想を短めに書いていきたいと思う。紹介は公開順。

劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ

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京都アニメーション制作で2015年4~6月に放送されたテレビアニメ「響け!ユーフォニアム」全13話を再編集した劇場版。原作は、吹奏楽に打ち込む高校生たちの青春を描いた武田綾乃による小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」。中学時代に吹奏楽部でユーフォニアムを吹いていた黄前久美子は、京都府立北宇治高校に入学。かつては強豪とうたわれた北宇治高校の吹奏楽部も、いまは落ちぶれ、演奏はお世辞にもうまいとは言えない。クラスメイトの加藤葉月川島緑輝に誘われて吹奏楽部の見学に行った久美子は、そこで中学時代の同級生・高坂麗奈の姿を見かける。葉月と緑輝は吹奏楽部への入部に興味を示すが、吹奏楽を続けることに今一歩踏み出せずにいる久美子には、麗奈とともに出場した中学時代のコンクールに苦い思い出があった。(https://eiga.com/movie/83456/より)

7.8/10.0

いわゆるアニメシリーズ「第1期」の総集編。
おそらく本来のシリーズからはこぼれ落ちてしまっているエピソードもあると思うのだが、劇場版でメインに描かれているのは「競技と部活動にある矛盾」だ。

吹奏楽という、演奏力で評価されるべき世界である一方で、コンテスト出場は部活動で独特の「先輩優先」となるしきたりは、実力のある後輩にとってはわずらしい矛盾だ。

外側から見れば「実力で淘汰されるべき」と正論をいってみたくもある。しかし意識差のある大人数を今まで取りまとめ、チーム維持に尽力した先輩への花道としたいという人情も理解できる。

「実力派」「先輩派」それぞれの立場からの葛藤が丁寧に描かれていた。

とある奏者のソロパートをめぐるオーディションの結末も見所だが、語り部でもある主人公の黄前久美子のキャラクターも秀逸。少し冷めた目線で部活動を眺めていたり、器用に立ち回りつつも、先輩部員からはその姿勢をチクリとされるなど、アニメチックでない人間臭さがあってリアルだった。

ただ、全体の物語はやや駆け足気味だったかな、という印象も。

劇場版 響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ

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吹奏楽に打ち込む高校生たちの青春を描いた京都アニメーション制作による人気アニメ「響け!ユーフォニアム」の劇場版第2弾。2016年10~12月に放送されたテレビシリーズ第2期「響け!ユーフォニアム2」(全13話)を、主人公の黄前久美子と先輩の田中あすかを軸にして再構成した。吹奏楽コンクール全国大会出場を控えた北宇治高校吹奏楽部。夏が終わり、秋の気配が近づいたある日、低音パートの要でもあり、副部長の田中あすかが退部するかもしれないという事態が発生する。美人でカリスマ性もあり、頼りにされているが、ふとした瞬間に他人を突き放すような冷たさを見せ、本心を見せないあすか。当初はそんなあすかに苦手意識のようなものを抱いていた久美子だが、あすかが退部がするかもしれないと知ったことで自身の中のあすかへの憧れに気付き、一緒に演奏したいという思いが強くなっていく。(https://eiga.com/movie/86697/より)

8.2/10.0

こちらはアニメシリーズ「第2期」の総集編。

劇場版で描かれるのは、「部活動、家族、将来」について。
アニメやライトノベルのストーリーでは、「家族」に関する描写が極端に薄いことが往々にしてあるが、本作はそれを真正面に描いた秀作。

副部長の田中あすかの秘めた想いと、娘の将来と母としてのプライドで意固地になる母親の想い、ともに「わかるな〜わかるよ〜」と思いながら物語の行方を追った。

前作で主人公の久美子が、今作のキーパーソン、あすかに一発チクリとされたので苦手意識もあったはずだが、自分の殻を破り心をぶつけ合う様は本作の見どころだ。

あとは圧巻の演奏シーン。劇場で見れば感動もひとしおだったろうなとテレビで眺めていた。

リズと青い鳥

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「映画 聲の形」が高い評価を受けた山田尚子監督が手がける、京都アニメーション制作のテレビアニメ「響け!ユーフォニアム」の完全新作劇場版。吹奏楽に青春をかける高校生たちを描いた武田綾乃の小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」を原作に、テレビアニメ第2期に登場した、鎧塚みぞれと傘木希美の2人の少女が織り成す物語を描く。北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルートを担当する傘木希美は、ともに3年生となり、最後となるコンクールを控えていた。コンクールの自由曲に選ばれた「リズと青い鳥」にはオーボエとフルートが掛け合うソロパートがあったが、親友同士の2人の掛け合いはなぜかうまくかみ合わず……。(https://eiga.com/movie/87240/より)

9.1/10.0

シリーズ最高傑作。

今作のみ監督は『聲の形』の監督も務めた山田尚子

ダイジェスト版でなく純粋な映画作品、ということもあったので監督の表現したい世界が繰り広げられたとも解釈できるが、とにかく日常の些細な描写と演出の仕方が見事。

例えば引っ込み思案なみぞれが、友人に誘われ夏の定番のお祭りやプールに行くような、いわゆるアニメの「お約束回(シーン)」は、会話のやり取りで行ったことだけは観客に知らされるが、それらのシーンは一切描かれない。淡々と、夏休みにコンクールに向けた練習の積み重ねで物語が進んで行く。主人公2人の担当楽器もオーボエとフルートということもあり、音色がとても華やかだ。

あえてアニメ映えするシーンを省きながら描かれた本作は、その日常の些細な部員たちのやりとりで心の機微を表現していく。「わびさび」としか言いようのない佇まいの映画作品。

作中のキーとなる架空の童話は「青い鳥を愛するからこそ、少女リズは青い鳥との生活をやめ、互いに新しい生活を歩んでいく」という、「依存からの脱却*2」がテーマにある。
このモチーフは作中の人物に反映されているのだが、物語の最後になると逆転していくさまも見事。

「誰かにとって自分はリズであり、青い鳥でもある」。
という、感受性豊かなティーンの心の躍動を静かにかつ、丹念に描いた傑作。
スピンオフ作品なのだが主役の担当楽器はオーボエとフルートなので、楽団のメロディ担当ということもあり、練習を重ねていくたびに鮮やかになる演奏にも注目。

あとこれは超余談、というか趣味の話なのだが、スカートの丈感が上品で非常にいい*3関西の女子高生って制服を膝下くらいで着ている子が多い印象。個人的にはこっちの方がおしゃれだと思う。細部にこだわる名監督です

劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~

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吹奏楽に打ち込む高校生たちの青春を描いた京都アニメーション制作の人気アニメ「響け!ユーフォニアム」の完全新作劇場版。テレビシリーズでは1年生だった主人公の黄前久美子らが2年生になり、新たに入部してきた1年生たちとともに全国大会金賞を目指す中で起こる波乱の日々を描く。全日本吹奏楽コンクールに出場を果たした北宇治高校吹奏楽部で、2年生になった黄前久美子は、4月から新しく入った1年生の指導にあたることになる。全国大会出場校とあって、多くの1年生が入部する中、久美子たちの低音パートには、久石奏、鈴木美玲、鈴木さつき、月永求という4人の1年生がやってくる。サンライズフェスティバルやオーディション、そしてコンクールと、全国大会金賞を目標に掲げて進む吹奏楽部だったが、問題が次々と勃発し……。監督の石原立也、脚本の花田十輝らテレビシリーズを手がけたスタッフ&キャストが再結集した。(https://eiga.com/movie/87241/より)

8.2/10.0

最新作にして完全新作。

いよいよ2年になった(『リズ〜』の時点で進級はしているのだけど)久美子たちが、いわゆる中間管理職的な役回りで奮闘するのが今作のキモだろうか。
個性独特な1年生相手に右往左往しながらも、自身の生活も新しいフェーズとなり、心労が絶えなそうなのが気の毒だ。

本作は一番群像劇テイストが濃い作品で、演奏技術に乏しい一部の3年生、進路に揺らぎ始める2年生、過去の経験ゆえ吹奏楽部の「厄介さ」を知り、警戒心を解かない1年生など、いろんな人間が錯綜してとにかくめんどくさい。青春アニメに対して初めて、「この世界には入りたくないな」と思った。まぁもちろんそういう生々しさと青春アニメの爽やかさが融合しているのが、このシリーズの魅力なのだけれども。

そして、タイトルの意味するところがようやく分かった。ユーフォニアムは「奏でる」というよりも「響かす」と言った方がいいような、楽団の低音を担う楽器だ。

低音には派手さはないものの、楽団の土台を支える重要な役割で、作中の久美子自身もう活動の背骨を支える役を買って出る。まさにユーフォニアムを体現しているような姿は、おそらく他の部員たちにも眩しく映っているのだろう。

まだ上映中のため結末は明かさないが、個人的には意外な着地を見せた本作。タイトルに「フィナーレ」ってあるのがちょいと不安だが、久美子はまだ2年生。ぜひとも卒業まで描ききってもらいたい。

*1:原作小説もあり。

*2:って書いちゃうと味気ないけど

*3:本編に出てくる子たちは基本ミニスカートなのだが、この作品に関しては長くなっている(気がする)。