海辺にただようエトセトラ

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海辺の映画館 キネマの玉手箱

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名匠・大林宣彦監督が20年ぶりに故郷・尾道で撮影し、無声映画、トーキー、アクション、ミュージカルと様々な映画表現で戦争の歴史をたどったドラマ。尾道の海辺にある映画館「瀬戸内キネマ」が閉館を迎えた。最終日のオールナイト興行「日本の戦争映画大特集」を見ていた3人の若者は、突如として劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ、スクリーンの世界にタイムリープする。戊辰戦争日中戦争沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島にたどり着いた彼らは、そこで出会った移動劇団「桜隊」の人々を救うため、運命を変えるべく奔走するが……。主人公の3人の若者役に「転校生 さよならあなた」の厚木拓郎、「GO」の細山田隆人、「武蔵 むさし」の細田善彦。2019年の東京国際映画祭で上映されたが、劇場公開を前に大林監督は20年4月10日に他界。本作が遺作となった。(https://eiga.com/movie/91540/より)

9.6/10.0

これだけエネルギッシュな作品を作れる監督が他界されるとは信じられない! と同時に、これだけ力が込められた作品を生み出せば力尽きるのもむべなるかなと、矛盾した想いを抱いてしまう大傑作映画。

破天荒な物語の展開である前作の『花筐』に通ずる世界観を、さらにアッパーかつ極彩色に彩っためくるめく映画絵巻といった趣で、はじめこそぶっ飛んだテンションに圧倒される。
狂言回しと思われる高橋幸宏が序盤はこの世界の設定をメタ的に話す部分は多くの人が面食らって「本作との距離感」を計りかねるだろうけど、主人公である3人の少年が映画の世界に引き込まれだす頃には本作の楽しみ方が分かってくると思う。

「日本の近代的な戦争」の歴史を、映画の物語に当てはめて網羅的に語っていく様は圧倒的で、大林作品おなじみのグリーンバックによる若干稚拙な合成がみごとにマッチしている。いや、むしろこのあからさまな合成感が映画を虚構たらしめているとも言える。「残酷な歴史を歩んできたこの国を、虚構(フィクション)の力をもってハッピーエンドに導く」という本作の主題と結実した映像表現ではないだろうか。

作り込まれたセットの中にいない俳優たちは、懸命に映画で描かれている「場」を想像しては右往左往する。
その生き生きとした演技に、観る側も感化されて「歴史」を幻視する。
会津戊辰戦争)、満洲日中戦争)、沖縄と広島(太平洋戦争)……どれも犠牲になるのは若き男女たちだ。彼ら彼女らの絶望を、単に悲しいものとせずにポップに表現したところに、大林監督の純粋な反戦思想を思い起こさせる--せめて虚しくも亡くなった方たちを美しくフィルムに焼き付けたい、という想いを。

近年の大林作品は「あらすじを追えば理解できる」というものでなく、彼が提示した3時間近いフィルムの一つ一つのシーンに大きなメッセージを込めているため、こればかりは体感してもらわないと本作の本質的な魅力は伝えきれない。

悲しくも美しいめくるめく映像体験で、この夏の幕開けを飾るのも乙ではないかと思います。
大林監督、今までお疲れ様でした! そして素敵な作品の数々をありがとうございました。

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