海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

Fukushima 50

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2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故で、未曾有の事態を防ごうと現場に留まり奮闘し続けた人々の知られざる姿を描いたヒューマンドラマ。2011年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0、最大震度7という日本の観測史上最大となる地震が起こり、太平洋沿岸に押し寄せた巨大津波に飲み込まれた福島第一原発は全電源を喪失する。このままでは原子炉の冷却装置が動かず、炉心溶融メルトダウン)によって想像を絶する被害がもたらされることは明らかで、それを防ごうと、伊崎利夫をはじめとする現場作業員や所長の吉田昌郎らは奔走するが……。現場の最前線で指揮をとる伊崎に佐藤浩市、吉田所長に渡辺謙という日本映画界を代表する2人の俳優を筆頭に、吉岡秀隆、安田成美ら豪華俳優陣が結集。「沈まぬ太陽」「空母いぶき」などの大作を手がけてきた若松節朗監督がメガホンをとった。(https://eiga.com/movie/90279/より)

※普段は個人的に好みでなかった作品はブログで取り上げずスルーしますが、今回の作品は例外的に取り上げます。

5.0/10.0

映画のつくりそのものがしっかりしているからこそ、非常に危険な創作物だ。

この映画が例えば架空の、それこそ『アルマゲドン』的なフィクションであれば命を賭した現場の方たちの熱意に心動かされるものの、この事故は実際に起こった出来事だ。
9年経った今描くべきは「あのころの現場の奮闘」を通して、ここまでの事故を引き起こしてしまった「原子力発電所の必要性」ではないだろうか。

世界を揺るがすほどの事態になったことはこの映画でも描かれているが、それほどの事故をもってしても未だに各電力会社は原子力発電所保有している。しかも代替エネルギーの開発や、津波被害を想定とした発電所の縮小化などは行われていない。
原発の稼働状況を見ればわかる通り、原発稼働率は極めて低いのにもかかわらず、だ。*1

素人目にもこの国は先の震災の教訓を生かしているとは思えない。そういった現状への言及が一切ないこの映画は、非常に不誠実であるとしか言いようがない。さらに言えば、原発に対して明確に「賛成/反対」をせず、あえてぼかすことで両者からの批判を避けようとしている姿勢が透けて見える。

他にも電力会社は略称こそは「東電」だけども、企業名は「東都電力(企業ロゴも微妙に違う)」であるし、現場に無理を強いてくる「悪役」と言える幹部連中の名前は、架空の苗字に差し替えている。
アメリカの映画『スキャンダル』では劇中で実際のトランプ大統領のニュース画面を使用して擬似的にシャーリーズ・セロンと討論させている。それに比較すると、あまりにも及び腰で情けない。
もちろんそこには、便利な言葉である「大人の事情」が横たわっているのだろう。しかし「原発事故」を題材とするのに「大人の事情」で忖度するのは、あまりにも本末転倒がすぎる。

そんなお粗末な信念のもとできた映画が、質そのものもお粗末であれば駄作映画と無視して終わらせられる。しかし、本作は演技の実力も確かな俳優陣が主要キャストとなっていて、娯楽映画としていくばくか高い水準を保っている分余計にたちが悪い。

例えば佐藤浩市たち現場の当直員が命を顧みずボイド作業を名乗り出るシーンは、正直言って涙なしには見られない*2。一方で彼らの仕事への姿勢には経緯を払いつつも、電力のために緊急時には「決死隊」が作られるような状況は、果たして今の世の中に必要なのかと感じてしまう。
渡辺謙演じる吉田所長が「この事故で死者が出たら首をくくらなきゃな」と語る部分があるが、この映画を見る限り死者が出なかったのは単なる偶然でしかなく、少なくとも10人単位の人が犠牲になってもおかしくない状況だった。

他にもネット上などで指摘があるが、(吉田所長に端を発する)東電側が事実の隠蔽を図ったことによる諸々の対応の遅さが、官邸側の混乱を招いた部分も「省略」しているようだ。

しかし、個人的には「事実との差異」についてあげつらうよりも、この題材で「特攻隊賛美」のような美談をつくり、原発の是非を論じず放置した本作の卑怯な姿勢に唾棄したい。
さらに正確に言うと、原発賛成の立ち位置であるにもかかわらず、さも中立のような立場で映画を送り出している欺瞞さに辟易している*3

この映画は「2020年に開催される東京オリンピックは『復興五輪』として、聖火ランナーは福島からスタートする」というプロパガンダ丸出しな字幕で幕を閉じる。
そもそも何をもってして「復興」なのかは語られず、今も仮設住宅で暮らす「故郷亡き人たち」の苦しみも描かれない。ある意味でこの映画の空虚さを象徴する幕切れであったことも付け加えておく。

本来ならば「0点」とでもしたいところだが、やはり主要キャストの演技力には敬意を評したいのでこの点とした。

*1:動いていない原発津波がやってきて爆発でもしたら、それこそ最悪だろう

*2:実際僕も泣きました。

*3:むろん、賛成派であるならその根拠を明示して語るべきだろうが、先に書いた通り批判を避けるためい敢えてボカしているのだろう。