海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ/地球最后的夜晩 Long Day's Journey Into Night

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初監督作「凱里ブルース」で注目を集めた中国の新世代監督ビー・ガンの第2作。自分の過去をめぐって迷宮のような世界をさまようことになる男の旅路を描いた。途中に3Dのワンシークエンスショットが入るという演出があり、物語の中盤で主人公が映画館に入り、現実と記憶と夢が交錯する世界に入り込むと同時に、観客も3Dメガネを装着し、その世界を追体験することができる。父の死をきっかけに、何年も距離を置いていた故郷の凱里へ戻ったルオ・ホンウは、そこで幼なじみである白猫の死を思い起こす。そして同時に、ルオの心をずっと捉えて離れることのなった、ある女性のイメージが付きまとう。香港の有名女優と同じワン・チーウェンと名乗った彼女の面影を追い、ルオは現実と記憶と夢が交わるミステリアスな旅に出る。2018年・第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品。日本では、同年の第19回東京フィルメックスで学生審査員賞を受賞。(https://eiga.com/movie/89955/より)

9.9/10.0

毎年言っているのだけれど、こういう映画を観るために年に何回も映画館に足を運んでいるんだろうなと痛感する。ころころ意見が変わって恐縮だけど、今年の暫定ベストかもしれない。

映画のつくりは少し不親切。大きく分けると「前半パート」と「後半パート*1」に分けられる。さらに前半は「過去」と「現在」の話が交互に映されるのだが、途中までは時間軸が変わっていることに気づかなかった(情けない話だが)。なので、僕も一度観ただけでは理解の及ばないシーンもいくつかあった。

そんなぼんやりした状態で進む映画のためか、映画comのレビュー欄は酷評だらけだ。やれ「何も起きなかった」だの「意味不明」だの。しかし、映画は別に「(起承転結をハッキリさせた)物語を収めたモノ」である必要はない
別に2時間椅子に座って鑑賞し、1秒でも忘れれがたい画、一片でも心に残り続けるセリフを見つけられただけで、存在の全てが愛おしくなる。それが映画体験なんじゃないかと思う。

特に本作は、スクリーンに映る画の一葉一葉すべてがあまりにも美しく、もはやそれだけでこちらを満足させてしまう魅力を持っている。*2
とはいえ、何も物語に魅力がない訳ではなく、むしろ余白が多い分受け手側の想像力で補って楽しめるものにもなっていて、非常に満足度が高かった。 

映画は全てが虚構だけれども、現実は虚実が入り混じってしまう

 というようなセリフが冒頭に挟まれるが、この映画自体が正に夢うつつな雰囲気を纏っており後半は実際に主人公の夢の中(とは言及されないが)に入っていく。
あらすじにある通り、観客も主人公と同じタイミングで3Dメガネをかける仕掛けは、劇場鑑賞ならではの体験が味わえた。

話の脈絡も特にないまま進んでいく後半パートは、僕たちが普段見る夢のようにふわふわとしている。これまで提示されてきた主人公の記憶と、起こったことのない事実がないまぜになっていくさまが、幻想的で心地よかった。

やんちゃな卓球少年が「幽霊」と自称する理由、はちみつ業者の男性へ決死の駆け落ちを迫る女性、悪い男に囚われ地元を出られない女性……劇中では明確に語られないが、受け手としては大体の憶測ができる。

彼らとのやりとり、そしてあまりにロマンティックなフィナーレには胸を締め付けられた。

 

*1:上記あらすじの3Dパート

*2:監督のインタビューいわく、本作の制作予算はなんと6億4000万円! 大規模なアクションがある訳でもないので、色の調整などに相当のリソースがかけられたのではないだろうか。