海辺にただようエトセトラ

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NO NUKES 2019 2nd DAY@豊洲PIT 坂本龍一+大友良英/「演奏以前」の、圧倒的パフォーマンスを見て

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脱原発」をテーマに掲げた音楽イベント、「NO NUKES 2019」の二日目に参加した。

テーマそのものに惹かれたのも事実だが、本心はもっと下世話で、このラインナップでチケ代4900円かよと思ったからだ。

若手から中堅まで揃えたバンドの中に、坂本龍一大友良英が腰を据えているイベントなんて中々ないだろうし、実際非常に楽しめた1日だった。

以下では、特に印象に残ったアーティストについて書きたい。

坂本龍一大友良英

教授については代表作は一通り聴いているが、大友良英は映像作品の有名な劇伴作家という印象しかなかった。*1
とはいえ、日本を代表する二人の音楽家のコラボレーションはとても楽しみにしていた。

ステージ上に置かれていたのは立派なピアノと、打ち込みの機械とギターなどの複数の楽器。一体どんな演奏が繰り広げられるのか……と期待していると、想像の遥か上をいく強烈な40分間が幕を開けた。

そもそも、あの二人のパフォーマンスを演奏と言っていいのか……ピアノ側に立つ教授は、ひたすらピアノ内部に張られた弦を叩き(?)、「ボーーーーーン」という音を鳴らし続ける。一方、向かいの大友良英サンプラーやギターをいじりながら虫の羽音のような「ジーーーーーー」というノイズを会場に響かせる。

はじめは「演奏を始める前の音出し的な準備なのかな?」と、多くの聴衆は思っていただろうが、10分もそんな応酬が続けば、すでに本番は始まっていたのだと気づく。会場にいたおよそ2500人が、ポカーンと二人の人間の謎の行動に呆気にとられていた。中には立ちながらにして居眠りを始める強者もいた*2

つい20分も前は若手のバンド、Yogee New Wavesが爽やかでトロピカルな演奏を奏でていたのが別世界だったかのように、リズムも、ビートも、果てはメロディも無いまま、理解し難いノイズの応酬が続く。ほとんどの人にとっては苦行のような40分だったと思う。

しかし、意味不明な音に包まれながらも、間違いなく興奮していた自分がいたことも事実だった。
そこでなぜ自分が興奮していたのか、数日しばらく考えていた。

あくまで個人的な解釈だが、この二人は「音楽が生まれるみちのり」を40分間で体現したのではないだろうか。

先述した通り、二人のパフォーマンスは「演奏以前」のもののように聴こえた。
ならなぜそのような音を出し続けたのか? おそらく「そもそも楽器がどういった存在であるか」を聴衆に伝えたかったのではないかと思う。

教授の使っていたピアノは、大きくは木で成り立つ楽器だ。ギターも、カート・コベインいわく「死んだ木」だ。
ピアノは鍵を押すことでハンマーが動き、ハンマーが弦を叩くことで音が鳴る。
弦楽器と打楽器の両方の側面を持った楽器であるピアノが、かつては木であったことを思い出させるために、教授は「むき出しの音」を僕たちに披露していた。

この日のイベントは「脱原発」を標榜している。要は電気の使い方(購入の仕方)をどうすべきか考えるーー転じて、「我々の生活は、何によって成り立っているのか」を確認する日である。

そう考えるとなんの気なしに使って、音楽を楽しんでいる楽器の成り立ちにも目を(耳を)向ける必要がある。かつては立派な木として土の上に育っていたピアノは、今では無機質なステージの上に佇んでいるのだから。

一通り脱構築された演奏(何もリズムやメロディがあるものばかりが「演奏」ではないと、この40分でようやく気づいた)の応酬が繰り返されると、ラストにようやく教授はピアノの椅子に座り、ポロンポロンと鍵盤を弾き始める。
聴衆は、メロディが生まれた瞬間に立ち会えたのだ。

とても感動的な瞬間だった。しかしほとんどの人は心ここに在らずだった

一方で演奏を終えた二人が、晴れやかな顔で聴衆を向いた時は、「単にこの人ら好き勝手にノイズ鳴らして喜んでただけなのかな」とも思ったわけだけども。

ライブ動画

大友良英本人もつぶやいていたので、もうオフィシャルということで当日のライブ動画も添付します。ぜひ「わけわからん感」を体感してもらいたいです。
けどPCとかスマホで見ても離脱しちゃうだろうな……。そういう意味でも半強制的にあの現場で大勢の人たちと観れたのはいい体験だった。ttps://twitter.com/otomojamjam/status/1110017868572155906

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もう一本、今年初のアジカンのライブについても書くつもりだったのですが、普段の記事よりも文字量が多くなってしまったので、次回書くことにします。

【備考】

この文章を書いていてこの日みたいな感覚は、以前も味わったことを思い出した。

それはロシアのカルト的人気を誇る映画監督、アレクセイ・ゲルマンの遺作『神々のたそがれ』という映画を観た時。いつか自分の考えがまとまればこの作品についても書いてみたい。

*1:あまちゃん』に『いだてん』と、NHKとの仕事の量がすごい

*2:あとで連れからそう聞きました。