すっかり企画倒れとなっているこのコーナー(?)ですが、今回印象深い出来事があったので複数の曲をまとめて紹介します。
序論:UZI、大麻所持で逮捕
UZI容疑者を逮捕 1200回分の大麻を押収 「自分で使うために持っていた」と供述しているが…
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ヒップホップリスナーならご存知の通り、ラッパーのUZIが麻取に逮捕された。
一般的な大麻所持による逮捕って、職務質問からの現行犯逮捕がベタな流れだけれど、麻取による家宅捜査の上での逮捕となると、おそらくかなり綿密な調査をした上での逮捕だったのでは、と想像する。
それもそのはずで、UZIの所持していた大麻はなんと600g。個人で楽しむ面で合法化されている国でも逮捕される量だ。
そのため「売人」や「振る舞い草」をしていた可能性も視野に入れて、今も取り調べを受けているのだろう。なんだか本人は義理人情に厚そうな人なので、黙り通すのかもしれないけれど。
いずれにせよ、これだけ大量に所持していたとなると、執行猶予もつかずにすぐさま実刑になるのではないだろうか。彼がナレーションや大会進行を務めていた「フリースタイルダンジョン」への復帰も絶望的だろう。
収録済みの番組を流すわけにもいかず、現状(※1月29日現在)は総集編を流すことでお茶を濁しているが、これ以降番組が存続するのかも不明だ。*1
また、今回の件は僕のように熱心に番組を見ていない人も興味を引き込まれているので、ある意味今がリスナーからの注目度が一番高い状況なのがなんとも皮肉だ。
1:般若がディス曲をアップ
この逮捕を受けて般若がインスタグラムのストーリーに怒りをぶちまける。
般若は同番組の「ラスボス」として番組の顔となっていることもあり、もちろん番組存続の危機に憤っているのだろう。
後日1月21日、般若が自身のブログでディス曲を発表。リンクはこちら。
内容はUZIと番組のオーガナイザーであるZEEBRAへのディスがメイン。使われているトラックは日本のヒップホップクラシックである「証言」だ。
「証言4番」を担当したZEEBRAと、幻の「証言8番(?)」をUZIが担当するはずだったことを汲んでのトラックチョイスだろう。ゆえに、般若の姿勢はベースにリスペクトがある。しかしキー局での番組を担当しながらも、なぁなぁに大麻との縁を切れずいる上の世代を糾弾するラップは、かなり辛辣な内容となっている。
ここには転載しないが、サイプレス上野やダースレイダーが「逮捕の件とは関係なく、UZIは人間性が良い人で、自分はUZIが好きだ」という主旨のつぶやきを投稿したことにもちくりと刺す。
曰く、「好きか嫌いかで俺はやってねぇ 人柄なんてクソ食らえ」とのこと。
いずれにせよ、攻撃性の高いラップスタイルは概ね好評で、これによってZEEBRAへのクソリプも増大していったようだ。
対するZEEBRAのリアクションは、確認できるところ以下のラジオの発言のみ。
この発言をどう取るかは人それぞれだろうが、アンサーする気は一切なさそうだ。
2: NORIKIYOがディス曲をアップ
この後、事態はさらに「番組外」も巻き込んだ形となる。
以前ZEEBRAへのディス曲を発表したNORIKIYOが22日、インスタグラムで「お年玉(香典)」の発表を宣言。香典ということでUZI関連の曲なのでは、と思いを巡らすと、案の定本件に関するディス曲だった。
・NORIKIYO / Nihongo Rap No Joke Show
※FREE DLあり
内容は当然当事者への言及も含まれているが、安易に茶化しているリスナーへの揶揄もある。
そしてなによりも「フリースタイルダンジョン」を始めとするバトルブームへの苦言が多い。
何文字の韻を何回踏んだ? はいw いいからアゲろよ
偉そうに解説者気取るカバなら吊るし上げ
ねぇ オーガナイズって何なの? 詐欺の類いなんかのう?
ラップバトルに明るくないので見当違いかもしれないが、ライム数などのテクニックに固執しすぎて「ライブとしての面白さ」が欠落しているバトルや、プレイヤーなのに解説者席にいる同業者、あるいはバトルブームに乗じた搾取構造への痛烈な批判が繰り広げられている。
なによりそういった状況を作り上げた「先輩」に対するディスと、現状の「(日本語)ラップブーム」に乗るつもりはなく、あくまで自分は「ヒップホップ」であるという宣言で曲は締めくくられる。
相手をおちょくりつつ、鋭く核心を突いていくワードチョイス、お得意の畳み掛けるようなフロウと、この曲もかなりクォリティが高い。
番外編: G.K. MARYANがアンサー
こちらは番外編として。
般若の曲で「マーヤンAgeHaに来んな。理由?邪魔だ。十分だ」
というディスを受けたマーヤンもツイッター上でアンサーを発表。
「RAPPERだしHIP HOPてき解決がいいです。(原文ママ)」というつぶやきとともに投下された曲のクオリティはさておき、スピードやラッパーとしてのアクション・姿勢は素晴らしい。
3:MC松島が曲をアップ
続く1月22日、多作家・バトル巧者で有名な北海道のラッパー、MC松島が一連の流れを受けて曲を発表。NORIKIYO曲への言及もあるので、正直リアクションが早すぎる。
・MC松島 - EVERYDAY PEOPLE (pro. ゼネラルド絶大)
※FREE DLあり
ゼネラルド絶大によるトラックは、先日の小室哲哉の引退報道を受けてだろう、globeの「DEPERTURES」をサンプリング。いちいちニクい。
ラップの内容も一連の騒動でヘイト感情が蔓延している状況に対し、沈静化を望む内容となっており、このリリックもいちいちニクい。
エブリデイピーポーおれたちのことさ
そんなに慌てふためくなよ
とりあえず落ち着けよ
小競り合いは足りてるよでもそれはお互い様だ
好きな物の話をしよう
まず昨日より幸せになりな
家族のそれを祈ってやんな(サビより引用)
イントロで「言いたいことは最後に言います」と告げ、曲の終わりは来月出る初のフィジカルアルバムの宣伝というオチのつけ方も素晴らしい。
個人的には「みんな聞いている オブクロさん」がパンチライン。
完全に漁夫の利ねらいのあざとい戦略だが、ピースな内容だけあってこれを聞いて不快になる人はいないだろう。役者だなぁ。
4:NORIKIYOが再度曲をアップ
27日、NORIKIYOがインスタで「追加公演」を宣言。
・" Nihongo Rap No Joke Show 追加公演 " NORIKIYO / 落とし物は何ですか?
※FREE DLあり
タイトルやイントロの鼻歌で、薬物をメタファーにしたとされる井上陽水の「夢の中へ」をサンプリングするという一捻りが上手い。
曲の一番の主旨は聞いてもらえればわかるとして、改めて言及されるZEEBRAたち「ベテラン勢」へのリスペクトと、それゆえにアンサーなどのアクションが皆無である現状への諦念が胸を打つ。
一方通行のラブレターへの返信は来るのだろうか。
5:いちリスナーの所感
・UZI逮捕について
個人的な見解で言えば、あるアーティストが大麻を吸っていようが覚せい剤を打っていようが、あるいは全身クリーンだろうが、それによる評価の上げ下げに変化はない。ただ、生まれた作品の良し悪しのみで判断するだけだ。
好きなアーティストにはなるべく健康でいて、作品を出し続けて欲しいとは思うが、創作の源が違法なものであるとしたらそれも仕方ないのでは、と思っている(逆に言えば「これ以上の表現行為は自分の生き方に支障が出る」という人は無理せず引退してくれて良い)。
薬物に関わらずありとあらゆるライフスタイルにおいて、あくまで「成人している以上、個人の意思を尊重したい」というスタンスだ(当然それが不当に他人を傷つける行為であれば、Noを突きつけることもある)。
その考えでいけば、UZIの大麻所持に関しても別に責める気はない。ただ、その一方で「逮捕」はいただけないと考えている。これまでもメジャーなフィールドに出るたびに、ヒップホップ関係者は逮捕されては、企画が潰れていったケースを何度と見ている。
フリースタイルダンジョンは、ヒップホップの面白さをあまりにも一側面でしか伝えられていないと感じているので、この番組がいわゆる「シーン」の発展に寄与していくのかには少し懐疑的だ。
しかし若手ラッパー(あるいはピークが過ぎているベテランも)が地上波のテレビ番組に出て名を上げるような「スターの誕生」にはもってこいの場なので、今後とも続けて欲しいと思っている。
そういう意味では、今回の件で番組が終了することになるのであれば、番組の関係者以上に、出演予定だったアーティストたちが気の毒過ぎる。
「たかが大麻で…」という意見もあるだろうが、ヒルクライムの処分や、UZIが参加していたコンピレーションアルバムも発売が無期限延期していることからも分かるように、「大麻所持の罪の重さ」というよりも、前科者が関わった時点でタブー扱いされてしまっているのが日本の音楽(芸能)界の現状だ。
そのため、般若が指摘している「あんたら世代の意識のなさ」というラインは非常に納得できるものがある。
ここからは完全な推測になるが、600gの大麻所持に関して、本人と近しい人物が知らなかった可能性はとても低いだろう。というかむしろ、「振舞って」もらっていた可能性が高い。
そうなると、「テレビの司会業をやりながら、この量の所持はまずくないか」と進言できる人が周りにいなかったことが非常に残念だ。長年同じクルーやレーベルでも活動していたZEEBRAがどこまで知っていて、どこまで黙認していたのかによって「意識のなさ」が問われる。
※と、ここまでグダグダ書いたことを、AK-69が簡潔につぶやいていた。さすが単独で武道館公演を実現できる男といったところか。
・アンサーについて
また、いちリスナーとして最も残念なことは、名前を挙げられたなかでアンサーを返したのがG.K MARYANのみであること。そしておそらく今後アンサーを聞ける機会がないことだ(もちろん、一連の流れで最もアンサーすべきは塀の中のUZIなのだけど)。
ZEEBRAはレギュラー仕事に加えて、各方面での対応に追われて忙殺されていることは察するが、ヒップホップ・アクティビストを自称する割にはアクティブに見えない姿勢が疑問である。
ZEEBRAに限った話ではなく、近年は売名系のディスには応戦しても、正統派のビーフは尻窄んでしまう傾向にあるように思えて、こういったシリアスな争いこそエンタメに昇華してこそのヒップホップではないのかと思ってしまう。
リリックを聞き取れば、般若もNORIKIYOも「愛」がベースにあるラップだ。「シーンにコミットしろ」と常日頃から言っているのだから、これには誠実なリアクションを取ってもらいたい。
まぁ、正直あまり期待はしていません。
・(無理くりに)まとめ
しかし、一連の騒動のおかげでかなり刺激的な曲が生まれたことが一番嬉しいことだった。
その一点だけ、UZIには感謝を表明したい。
ラッパーを名乗っている以上、何年後かの復帰した後のアクションが非常に楽しみだ。別に「まったく反省してません」と開き直るD.Oの姿勢だってアリだと思う。
「不甲斐ないベテラン」のような空気を一蹴してくれることを願っています。
*1:すでに番組は新しい回の収録も行っており、継続していくようです