海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

今日の1曲 #11 NiziU『MAKE YOU HAPPY』(2020年)

※本記事は、一連のプロジェクトや事務所への少しネガティブな意見を書いています。
そういった意見が苦手な方はスルーを推奨します。

www.youtube.comK-POPの大手事務所、「JYPエンターテインメント」の名物社長「パク・ジニョン(J.Y.Park)」本人が審査をするオーディション番組で結成された、日本人ガールズグループのプレデビュー曲。
2020年6月30日日韓リリース。同年7月1日より全世界配信。

6.0/10.0

少し前の話になるが、僕が好きなとあるガールズグループのリーダーがネット上で炎上してしまい、その炎上に対して伝家の宝刀のようにJ.Y.Parkの金言がSNSに画像として貼られていた時期があった。
一言一句覚えてはいないが「アイドルたるもの、周りの人に感謝して接する必要がある」とか、そういった言葉だった。

他にも彼は

  • 過程が結果を作って、態度が成果を生む
  • 真実・誠実・謙虚であること

など、確かに大事なことをおっしゃっている。

これらは恐らくJ.Y.Park本人は別に名言と思っていなく、「当たり前に意識するべきもの」として口にしているのだろうけど、それを他者が「名言」と祭り上げ、何かミスをした人を叩く風潮はとても気持ち悪く感じた。

J.Y.Parkは彼自身のシンガーソングライター、ダンサー、プロデューサー、経営者という様々なキャリアを経てたどり着いた哲学を披露しているわけで、単に言葉を額面通りに受け入れ、その言葉に当てはまらない人を「アイドル失格」とするのはただの類型化による暴力で、全く支持できない。

さらに言えば、シンプルな言葉はいくらでも解釈の余地があるため危険だと思う。
例えば「真実・誠実・謙虚であること」なんかその典型で、今後この言葉を自分の都合のいいように解釈してバッシングする未来が見える。(例えば、ティーンの少女が恋をした時、それを「真実」として世に晒す必要があるのか?)

こういう言葉を対外的に発することで「有能な上司」として本人は崇められつつも、その言葉のリスクは、彼の管理する少女たちが背負う。この構造は非常にアンフェアに感じる。

……とまぁ、そんな感じでJYPへはかなり偏った視点を持っている僕がNiziUの曲を聴いてみると、
なんだか「JYPの教典を歌詞化した」ように感じてしまって結構ゾッとした。
この曲を僕が一言でまとめるなら「私たち、滅私奉公してファンのために活動します!」だ。
それ以外の解釈があればぜひ教えて欲しい。

試しに歌詞の冒頭を引用する。

Nothing ヒミツならNothing
Something 特別なモノあげるのに
どんなのがいい? 笑顔にしたいのに
That thing 探し出す キミのために

上記を僕が解釈すると、以下になる。

  • 私たちにはファンへの「隠し事はありません」
  • ファンの皆さんを笑顔にするものをあげます(探し出します)

これを、まだデビューして間もないティーンの少女に歌わす構造が、非常にグロテスクに感じた。

以降も歌詞を見ていくと「他者(ファン)への貢献」ばかり歌われていて、
肝心の彼女たちにとって何が幸せなのかが全く見えてこない。*1

以前記事に挙げたTWICEの「HAPPY HAPPY」は、あくまで彼女たち自身の幸せが歌われていたのだけど、あまりの落差に驚いた。

JYPの哲学が世の中に響いたのは、K-POPといえば「実力」が何よりの評価の指標だとしていたのに対し「精神性(人間力)こそ大事である」としたところなのかなと思う。(※別にこれは今まで裏方の人が改めて名言していなかっただけで、国を問わず多くのアイドルはすでに念頭にあるものだと思うけど)

とはいえ、レベルが上がり切ったK-POP界では、パフォーマンススキルを疎かにしては当然デビューもできない。なので彼女たちはハードなレッスンに加えて、人間性についてまで世間から見られることになる

この曲のMVを見ると、かなり不健康な痩せ方をしてしまっている女の子がキックボードを蹴っている。デビュー前に活動休止となってしまった、ミイヒというメンバーだ。
デビュー前に活動が困難になってしまう事態はかなり異例で衝撃的だが、社長自身によって世に放たれた正論でガチガチになって、身動きが取れなくなってしまった少女の姿が浮かび上がってきてしまい心が痛い。(ちなみに、この番組が好きな友人何人かに聞いたのだけど、ミイヒはオーディションラスト付近で低評価を受けてしまい、かなり焦っていたようだ)*2

そして今回の出来事は、元を辿ればオーディションを「番組」として成立させたからこそ起こり得たモノだと思う。未成年の少女(少年)を「公開オーディション」という形で、彼らにとっての人生の一大事を世に晒すことは、通常のオーディション以上に精神に負荷をかけているはずだ。

デビュー前の貴重な「青春の時間」をコンテンツにされて、果たして彼らに金銭は発生しているのだろうか?(特にデビューできなかった人たちが気がかりだ)最近とりわけ流行っているこのコンテンツは、ブラック企業の「やりがい搾取」のように見えてしまう。

JYPは他の事務所に比べると、メンバーの体調不良(精神不調)による活動離脱が頻繁である。これは他の事務所より休養を与えるボーダーラインが低い可能性もあるけど、絶対数を見れば「体/心の調子を崩しやすい事務所」とも捉えられる。側からみると事務所の稼ぎ頭であるTWICEの今年の活動(リリース)量は他のグループの倍近いのではないだろうか。

テレビを見ない僕でも彼女たちのめざましい活躍はネット上で、あるいは街中で目にする。この異常な露出量では、彼女たちが同年代の少女たちのようなプライベートを送ることはまず不可能だろう。(もちろん彼女たちより忙しいK-POPスターもいるのだが、NiziUにはティーンのメンバーしかいないのが気がかりだ)
健気に頑張る少女の姿に胸を打たれる人を否定はしないが、大人であればその裏にあるものはしっかりを目を凝らしておいて欲しいと思う。

*1:トラックに耳を向けると、K-POPらしいシンプルなビートが絶妙な塩梅でJ-POPナイズされていて、ヒットするのも肯けるものだ。ただ、「K-POP」の土俵に上げると、メンバー個々のボーカルも弱いしサビも印象に残らず、(プレ)デビュー曲としてクオリティが高いとは思えない

*2:そしてJ.Y.Parkは、特に女性アイドルに過剰なダイエットを要求するという話も聞く。