海辺にただようエトセトラ

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2020年 ラップミュージックin JAPAN ベスト10 後篇

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前回の記事の続きで、残りの5曲を紹介します。

#05:Awita - 真夜中の王国

5位はかつて「mikE maTida」名義でミックステープを多数リリースしていたレペゼン杉並のラッパー/トラックメイカー、Awitaが自粛期間中にリリースしたミックステープの1曲を。

以前の名義では、聞いてるこちらをくすりとさせるようなユーモアあふれるラップが魅力だったのですが、名義変更直前くらいからシリアス?というかローテンションな作風になり、いまいちその変化に魅力を感じられませんでした。

しかし今作で彼が「ストーナーラップ」に比重を置いて創作を行っていることがようやくわかり、その魅力にストーンとハマるようになりました。
中でもこの曲は

「海外じゃ普通みたいだ/知ってんだろWiz Khalifa」

「いつまで時代遅れの常識に/気づかないふりをして生きている/俺たちは今を生きるしかない」

という歌詞からも分かるように、自分の立ち位置を明確に表明した一曲。

日本では犯罪とされる大麻所持の時代錯誤感を、日本の世界での立ち位置そのものに置き換えては、ジョイントに火を付け皮肉の一つでも溢している彼の姿が目に浮かびます。表立った笑いの表現は潜めつつも、この曲はユーモアセンスに溢れているので入り口にお勧めです。 

#04:田島ハルコ - うちで暴れな

続いては、今の日本で随一のリリックセンスを持つ田島ハルコの「うちで暴れな」を。

この曲は自粛期間中にいろんな意味でバズった星野源の「うちで踊ろう」アンサーソング的なもので、「自粛ムード」への苛立ちを見事にエンタメに消化した名曲。

「じゃやるべ!お家カフェ!」とかももうええやで
ごまかしてるその間に廃墟と化すリアルカフェ

以前挙げた「zoom」でもそうですが、彼女の目の付け所やセンスは上記のリリックを見れば一目瞭然で虜になります。いまだに過小評価されているラッパーの一人。

この曲はYouTubeのビデオもとても傑作だったのですが、残念ながら今は非公開となっています。

しかし上記のbandcampのリンクから無料でDL可能ですので、気になる方は是非聴いてください。

#03:¥ellow Bucks - DO FOR LOVE FREESTYLE

3位は押しも押されもせぬ若手ラッパー、¥ellow Bucksが2パックの「Do For Love」をビートジャックした楽曲を。

この曲が生まれた背景はYouTubeに飛んで各自読んでいただくとして、世界的ムーブメントである「BLM」への意思表明と、日本の社会を鮮やかにリンクさせた手腕に脱帽。
出だしの

取り戻すぜ失った物/ラヴとガバメント

=「この国に真っ当な愛情や政府がない」とぶちかまし

愛は一体どこへ?Where you at?
安倍も一体どこへ?花見

とチクリと皮肉を加えるリリカルセンスも素晴らしい。
¥ellow Bucksはどんなビートも自分のものにできる瞬発力が非常に魅力なので、ぜひとも去年にでた傑作1stを聴いてもらいたいと思います。

#02:NORIKIYO - だいじょうぶかぁ?

2位には自粛期間中にNORIKIYOがリリースしたこの曲を。
しっかりと調べてはいないですが、このコロナ禍において真っ先に世相を反映した曲を出したのは彼ではないでしょうか。

マスクを奪い合うように薬局に人が溢れた当時、「アベノマスク」というクソをドヤ顔で配布する政府、車中泊を繰り返し子供にも会えないエッセンシャルワーカー……

当時の社会の様子を一つ一つを緻密に取り上げては、丁寧に歌詞にしたためるNORIKIYOのスタイルはもはや職人芸に達しており、あまりにも「自分の怒りを代弁」されていて、思わず笑ってしまうこと請け合いです。

そして日本を代表するコメディアンが亡くなった直後でもあり、彼へのリスペクトをこめたタギングとフックにも胸を打たれます。

#01:Gotch feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka - The Age

そして2020年の1位に選んだのは、ご存知ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマンであるGotchのソロ曲。

超平たく言うと「チャンス・ザ・ラッパー以降のゴスペル的なヒップホップサウンド」×「メロディアスなラップ」の曲なのですが、Gotchのラップがこれまで以上にアップデートされていて聞き応えがあります。よりフロウを「歌」に近づけることでラップにもキレが生まれたように感じます。

「ポリティクスには興味はねえ」って
いい歳こいて そんなことまだ言ってんの?

と痛快なパンチラインも入っており、「いちラッパー」としてのカッコ良さが確立されています。(もちろん、こういったストレートなものいいも、序盤の巧みな比喩表現も好きです)

客演に招いたBASIもこの手のサウンド、ラップアプローチはお手の物と言わんばかりに巧みに乗りこなします。

ヒップホップは「勝ち負け」が尺度の一つになりがちではありますが、あえてレースや勝負を放棄し、「分かち合い」をテーマに掲げたこの曲は、分断が叫ばれて久しい今こそ響かせるべきポップミュージックでしょう。

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というわけで、2本に分けてお送りした2020年