海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

はじめてのおもてなし/Willkommen bei den Hartmanns

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難民の青年を家に受け入れたことをきっかけに変化していく家族の絆を描いたドイツ発のコメディドラマ。ミュンヘンの閑静な住宅街に暮らすハートマン夫妻。現在は教師を定年退職し、暇を持て余す妻のアンゲリカ、大病院の医長を務める夫のリヒャルトの2人暮らしだ。ある日曜日、子どもたちが顔を見せ、久しぶりに家族全員が集まったディナーの席でアンゲリカが「難民を1人受け入れる」と唐突に宣言。夫や子どもたちが猛反対する中、アンゲリカに押し切られる形でハートマン家にナイジェリアから来た亡命申請中の青年ディアロが住むことになる。そのことによりストレスが急上昇したリヒャルトは部下にあたりちらし、職場で孤立。一方のアンゲリカは、ディアロにドイツ語を教え、庭仕事を指導するなど、かつての輝きを取り戻していく。そんな中、歓迎パーティでディアロをもてなすはずが、アンゲリカの友達のせいで警察沙汰の大騒動へと発展してしまう。(http://eiga.com/movie/87744/より)

8.5/10.0

「深刻なテーマほど、ユーモアを持って伝えることが大切」だと考える僕にとっては、非常に理想的な作品だった。本作が上映されているシネスイッチ銀座は、ミニシアター系の、特に社会問題を作品に絡めた映画が単独で多くかかる映画館だが、この作品に関してはもっと多くの映画館で上映してもらいたい。
押し付けがましさがなく、単純に万人ウケする面白さがあると思うからだ。

移民に関する諸問題に関しては勉強不足で、特に言える意見もないのだが、本作が提示しているライフスタイルは、かなり理想的な姿なのではないかと思う。
移民において恐らく大きな問題となるのは、宗教観の違いだろう。日本に住んでいるとあまりわからないことだが、本作や様々な映画を観ていると多くの人間にとっては、宗教が生活の大元に根ざしていることが分かる。その点を、コメディの体裁でわかりやすく伝えているのが本作の特徴の一つだ。

イスラム教徒であるディアロと、キリスト教徒であるハートマン家では「家族」の考え方が違う。家庭内での威厳を保ちたいと思いながらも、ヒアルロン注射などの美容整形にいそしみ、「老いへの焦り」が見え隠れするリヒャルトは、家族からみっともないと思われている。
そんな彼へのリスペクトに欠けた家族のなじりに、ディアロは「年上を敬わなければダメだ」と家族を諭す。
一方30歳を超えても大学に通い、独身でいる娘のゾフィには「もう結婚して子供を産まないと幸せになれないよ」と、少し前時代的なアドバイスをしている。
どのシーンもギャグタッチで描かれているが、重要なのは「完璧な文化や価値観は存在しない」という点だろう。だからこそ今後の社会では、異文化との交流によって「善」をどう育んでいくべきかを考える必要がある、と感じた。

他にも本作は、日本に通ずる「家族」のあり方が細かく散りばめられている。

エリート至上主義に走る社会やネトウヨ的思考の不寛容さ、キッズに浸透しつつあるヒップホップ文化(これはかなり笑える)など、一見雑多に思えるテーマも丁寧に一つの物語に落とし込まれている。

個人的に注目して欲しいのが、ディアロのユーモアだ。
映画の初めはディアロの「異文化ギャップ」がギャグとして扱われるのだが、徐々にディアロ自身がそのギャップを理解した上で、ハートマン家にギャグを披露していくようになる。これは言わずもがな、時間とともにディアロとハートマン家の心の距離が縮んでいっていることを表現していて、とても良い演出に思えた。