海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

デトロイト/Detroit

image

ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー監督が、黒人たちの不満が爆発して起こった1967年のデトロイト暴動と、その暴動の最中に殺人にまで発展した白人警官による黒人たちへの不当な尋問の様子をリアリティを追求して描いた社会派実録ドラマ。67年、夏のミシガン州デトロイト。権力や社会に対する黒人たちの不満が噴出し、暴動が発生。3日目の夜、若い黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響く。デトロイト市警やミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、地元の警備隊たちが、ピストルの捜索、押収のためモーテルに押しかけ、数人の白人警官が捜査手順を無視し、宿泊客たちを脅迫。誰彼構わずに自白を強要する不当な強制尋問を展開していく。出演は「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のジョン・ボヤーガ、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールター、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」のアンソニー・マッキーら。脚本は「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」も手がけたマーク・ボール。(http://eiga.com/movie/87571/より)

8.810.0

宣伝記事に「全世界が震撼したアルジェ・モーテル事件《衝撃の40分》を体感せよ!!」なんて煽りがあって、なんだかアクション映画的なカタルシスを期待してしまう人も出てきそうで不安だが、正直言って二度と見たくないくらいの衝撃が待ち構えているので、ある程度覚悟をして鑑賞して欲しい一本だ。しかし、誰もが見るべき作品であることも間違いないのだが。

ひたすらに実録風に撮られるカメラの臨場感が凄まじい。50年前のデトロイトに放り込まれたような説得力は、近年のVRや3Dと言ったテクノロジーによる力ではなく、表現者側の「“伝える”という執念」がダイレクトにフィルムとなっているからだろう。

もはやモラルが中世以前としか言いようがない暴力的な白人たちによる、黒人への蹂躙は見ていて本当に辛い。恐ろしいのが、一体彼らがなぜそこまで黒人に対し憎悪の念を持っているのかがわからないことだ。

理不尽かつ無秩序な暴力も、スプラッターやホラー映画であればエンタメとして受け入れられるが、この事件は紛れもなく現実に起きたことなので、感情の置き場がない。
こういった絶望の積み重ねの果てに噴出したのが、この暴動であることも十分に納得できる。

これまで何度もアメリカの、「自画自賛映画」を観てきた。そこには力持ちの、心優しい男たちが弱者に手を差し伸べ、弱者が不幸から抜け出す描写がこれでもかとスクリーンに映されていた。

しかし現実に、そんな分かりやすい正義の味方はいない。

あまりに広がり過ぎた暴動を収束すべく、当時は周囲の州の警察や軍隊まで駆けつけていた。
しかし、モーテル内で起こっているデトロイト警察の逸脱した暴力には、ほぼ全員が我関せずの顔で「ここで起きたことは全てデトロイト警察の責任だ」と言い捨てて去るのみ
昨年鑑賞した「パトリオット・デイ」と、まるで鏡合わせのような作品である(もちろん、どちらか一方のみが真実であるというつもりはない)。

無根拠なヘイト感情が生み出す暴力の恐ろしさは、果たしてこの国にとって「対岸の火事」なのだろうか。そんな想いとともに、劇場を後にした。