海辺にただようエトセトラ

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2020年 ラップミュージックin JAPAN ベスト10 前篇

 

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今更ですが、2020年によく聞いたラップソングのベストについてコメント付きで紹介できればと思います。
例によって日本のラップミュージックのリリース情報では国内最大手のブログ、「2dcolvicsさん」のお誘いで選出しました。該当記事→

選出にあたって意識したのは「振り返ってこのリストを見たとき、2020年をどれだけリアルに思い出せるか」です。
ご存知の通り2020年はすべての人にとって衝撃の大きい1年でした。「アーティストがダイレクトに感情を表現できること」はラップミュージックの強みの一つです。彼ら/彼女らの視線の延長に社会がうっすらと見える曲を意識的に聞いた1年でした。

あと裏テーマでなるべく多くの人が聴けるよう「YouTubeで聴ける曲」としました。※ですが、1曲のみ現在取り下げられてしまっています……。

なのでそれぞれ埋め込みで紹介をしていきます。お時間ある方は聞きながらお読みください。

#10:4s4ki feat. rinahamu - NEXUS

まずはじめはトラックメイクもこなすアーティスト、4s4ki(アサキ)の曲を。
デビュー当時(asaki名義)の彼女のスタイルが非常に「泉まくら」と被って見えてしまって、「それなら泉まくら聞くしな…」と思っていたのですが、現在の名義になってからようやく彼女の魅力に気付きました(遅い)。

彼女自身は「ヒップホップの意識」をそこまで持ってないのかもしれないけれど、この曲一つとっても確実に同ジャンルの表現方法の枠を押し広げていて痛快です。リリックを読み解けば「ユニティ」や「自分らしさを突き詰める」といったヒップホップの根っこの部分を信念として持っているのも大きな魅力。

しかもアルバムのどの曲もジャンルが被らない多彩な作家性……今年出たアルバムは本当に楽しめました。

#09:m-flo Loves Sik-K & eill & 向井太一 - tell me tell me

HIPHOPR&Bを広げる」という意味では、その元祖たるアーティストがm-floだと思いますが、LISAが復帰しているのに「Loves」でゲストも呼び込むという全乗せ仕様で2020年はカムバック。

冒頭の「miss you」の引用から痺れさせますが、やはりゲストのプロデュースがとても上手い。eillも向井太一もキャリア最高クラスのパフォーマンスを披露していますが、韓国のラッパーSik-KがMVP。日本語も織り交ぜつつもパーカッシブなハングルラップを堪能させてもらいました。

続いて選んだのは、僕のベストでは最若手かもしれない、vividboooyがラップグループのCookie Plantを招いて作ったシングル。

以前はそこまでvividboooyが好みでなかったのですが、ここで歌われている想いやバイブスにとても共感できたのでこの曲は繰り返し聞きました。

端から見ると「アウトサイダー」とみなされそうな自分たちは、しょせん

「俺ら真面目は装えないから」

と言い切り仲間たちと楽しく過ごす情景が浮かんできます。客演のCookie Plantが出したアルバム(ミックステープ)もラップがタイトでとてもかっこよかったです。

#07:DJ CHARI & TATSUKI feat. Tohji, Elle Teresa, UNEDUCATED KID & Futuristic Swaver - GOKU VIBES

 2020年は一切クラブに行かなかったのですが、この曲が連日フロアでかかっていたことは想像に難くありません。
かねてより独特な曲の着眼点や、耳に残るフックで他を圧倒していたtohjiの新たな代表曲となりうる傑作。

正直そこまでこの曲にドラゴンボール感は感じないのですが

「ららぽの代わりにエアポートのノリ」

とか、意味不明なように見えて行間でなんとなく意味をわからせるラインの歌詞が癖になります。*1

エルテレサの舌足らずなラップは好みがわかれると思いますが、締めの韓国のラッパーはクセのあるライン込みで文句なしにかっこいい。「日本語の歌詞、それでいいの?」と思わず2度聞きしてしまうこと必至。

#06:valknee, 田島ハルコ, なみちえ, ASOBOiSM, Marukido, あっこゴリラ - Zoom

世間的にも「フェミニズム」がようやく浸透しつつあるように感じられますが、本曲は「フェミニズム・ラップ」と言って差し支えない名曲ではないでしょうか。

はじめは「コロナ禍を受けて普及したzoomをテーマにしたラップなのかな」と思い聞いていると、出るわ出るわパンチラインの数々。
「女性アーティストは、表現におけるスキルよりも真っ先に見た目に言及される」というルッキズムの弊害を、zoomという顔出しツールをモチーフに表現するアイデアは非常に素晴らしい。

ヒップホップ好きからすれば、この組み合わせでマイクリレーをしていることも意外性が抜群で、いわゆる「シスターフッド感」にもヤラれました。
この曲以降ユニットとしても活動しているので、今後の活躍にも期待。
ただひとつ、個々のスキルのばらつきは気になります。特にASOBOiSMは歌詞にひねりを感じられない。
たとえばバースの締めを

いつか今日の日も 笑い話

としているけど、「“笑い話にすること”をどうラップで表現するか」が、作詞の真髄だと思います。
現に田島ハルコは

やめらんねえ止まらねえコロナの愚痴/でも終わったらウチらは絶対になろねRich

 と「今は苦しいけど、これを乗り越えたら金持ちになろうぜ」とASOBOiSMの歌詞でいう「笑い話」に当たる部分をユーモアあふれるリリックで表現しています。
単発の企画ならともかく、ユニットとして継続的な活動をするなら互いの歌詞のフィードバックをシビアにしていって欲しいと個人的には思います。

意外に書いていると文字量が増えてしまったので、次回に続きます。

*1:多分「ららぽーと行く感覚で空港に行って=海外に飛んで活躍してるんだぜ」という意味ではないでしょうか。