海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー/Booksmart(2019年,オリビア・ワイルド監督)

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「リチャード・ジュエル」「トロン:レガシー」などの女優オリビア・ワイルドが長編監督デビューを果たし、女子高生2人組が高校最後の一夜に繰り広げる騒動を描いた青春コメディ。高校卒業を目前にしたエイミーと親友モリーは成績優秀な優等生であることを誇りに思っていたが、遊んでばかりいたはずの同級生もハイレベルな進路を歩むことを知り、自信を失ってしまう。勉強のために犠牲にしてきた時間を一気に取り戻すべく、卒業パーティへ繰り出すことを決意する2人だったが……。主演は俳優ジョナ・ヒルの妹としても知られる「レディ・バード」のビーニー・フェルドスタインと、「ショート・ターム」のケイトリン・デバー。「俺たち」シリーズのウィル・フェレルとアダム・マッケイが製作総指揮。(https://eiga.com/movie/91288/より)

9.8/10.0

青春映画は毎年バンバン作られている映画ジャンルだと思うが、本作は完全に頭ひとつ抜けて面白い。

原題の「booksmart」は「本で得た知識で賢い人」を示すようで、要はガリ勉だけど世間を知らない人間に対して使われる言葉。
その言葉の通り、遊び呆けている同級生を尻目に勉強に青春を注いだ少女たちが、この映画の主人公だ。彼女たちのささやかな一夜の冒険がフィルムに収められている。

冒頭のつかみから最高。
学校内では進路が決まった学生は「他の学生のプレッシャーになるから」と、進学先を言わないルールになっている。名門であるイェール大学に進み、裁判官を目指すエイミーは鼻高々で、学内で恋に青春にと騒いでいる同級生を内心馬鹿にしている。

ところが卒業前日によくよく話を聞いていくと、いわゆる「リア充(死語)」な奴らは「Googleに内定済み」「ハーバード大へ進学」などと、彼女同等の明るい未来が待っていたのだ!(このシーンは非常に気の毒なのだけど、爆笑必至)

青春を勉強漬けで終わらせてしまったことを大後悔したエイミーは、親友のモリーを誘いリア充の開催する卒業前夜パーティーに乗り込むことを決心する。
ところが、勉学に勤しむために友人付き合いを(あえて)絶っていた彼女たちは彼らの住所がわからず、インスタのストーリーを眺めながら冒険を始める。

……そんな感じでストーリーは徹底してコメディながらも、ステレオタイプにとどまらない登場人物の描き方が素晴らしい。

例えば親の金にものを言わせるも、全く人気者になれないジャレッドというキャラクター、彼は主人公たちに「お金で友情は買えない」と諭される脇役なのだが、ラストの待遇はこれまでの青春ムービーとは一線を画すものだと思う。映画の登場人物たちに合わせて思わず声をあげてしまうだろう、哀れだがキュートでもある彼の行方を見守ってほしい。

そして、主人公たちが敵視する「リア充」たちにも本作は厚みを持たせている。あまり書くとネタバレになってしまうが、主人公たちが「自分たちが軽んじられている」と思っていたのは、そもそも自分たちが「彼らを軽んじていたから」だと徐々に気付いていく過程は涙ぐましいし「きっと俺もこうだったんだろうなぁ」と、ちょっぴり後悔したりする。*1 

自分の青春時代に置き換えつつもどの属性にいたとしても温かい眼差しを向けてくれる、非常に愛に溢れた一本。誰とも問わずおすすめ!

*1:しかもエイミーたちみたいに、俺は勉強をそこまで頑張ったわけじゃないところが余計に虚しい