海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ミシェル・オバマ『マイ・ストーリー』(集英社ビジネス書,2019)

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第44代アメリカ大統領夫人、ミシェル・オバマの自伝。原題は『BECOMING』。

違いを乗り越えて、
人々をエンパワーメントする
生き方とは。

「これは私の話だ!」
アメリカ大統領夫人の回想録が、
日本でも多くの共感を呼んだ――
世界45言語、1,000万部突破のロングセラー!

https://shueisha-mo.com/より)

9.0/10.0

ミシェル・オバマというと、オバマ前大統領の隣に寄り添い、家族と仲睦まじく過ごしている聡明な女性、という印象がある。
そしてそうした人柄や教養は、他の多くのエリート同様に、生まれながらに恵まれた環境にあったことが大前提なのだろうななどど勝手に決め付けていた。

しかし彼女の自伝である本書を読み進めると、その思い込みは覆る。
上記に挙げた公式サイトのリンクで本書の概要を読んでもらえれば明らかだが、彼女はシカゴのスラム街で生まれ育ったのだ。

そこでは教育の質の低さによって、「学ぶことの大切さ」を知らないままに育ってしまう子供たちが少なくない。*1
事実ミシェル自身も教育に熱心でない教師が担任になり、母の抗議によって教師が変わり難を逃れた少女時代がある。
ちょっとした巡り合わせや踏み外しによって教育の機会を奪われ、それがその子の将来にまで直結してしまう現状を彼女は目の当たりにしていたのだ。

だからこそ、大統領夫人となってからも子供たちの支援を惜しまずやってきた記録が本書には綴られている。詳しい行動や実績は本書に譲るが、銃社会でたびたび悲劇に見舞われるアメリカで、誠実に子供たちが安全な社会で育つよう奮闘する姿には胸を打たれる。

一方でそんな彼女から見るバラク・オバマの人物像も興味深かった。床に穴の開いた車でデートするくらい世俗に無頓着で、本を読みあさっている彼は間違いなく常人離れしていると痛感する。

ただ、一つ注文をつけるなら書籍の構成については大ぶりな3章とするのではなく、もう少しキャリアごとに分けてもらった方が読み手としてはありがたかった。
彼女は「学生」「弁護士」「非営利団体のリーダー」「大統領夫人」と実に多彩なキャリアを歩んでいる。本書は時系列に語られているのでそういった章立てで見せると、600ページほどある分厚い書籍を手に取った人でも、中身を把握できるのではないかなと感じた。

Netflixでは本書を刊行した記念に全米ツアーを行う様子を収めたドキュメンタリーが配信されている。こちらは本書をコンパクトにまとめているので、分厚い本が苦手な人はこちらから見るのも良いかも。

www.youtube.com

*1:そして、彼らはギャングの道を歩んでいってしまう。