海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)/82년생 김지영

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韓国では100万部を超えるベストセラーとなった小説。2018年12月10日に日本語訳版が刊行。

ある日突然、自分の母親や友人の人格が憑依したかのようなキム・ジヨン。誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児…彼女の人生を克明に振り返る中で、女性の人生に立ちはだかるものが浮かびあがる。女性が人生で出会う困難、差別を描き、絶大な共感から社会現象を巻き起こした話題作! 韓国で100万部突破! 異例の大ベストセラー小説、ついに邦訳刊行。(https://www.amazon.co.jp/dp/B07NNPM8RM/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1より)

8.5/10.0

積読シリーズ2冊目。*1200ページにも満たない小説なのであっさり読めた。
良くも悪くも大論争を巻き起こした本書であるが、「アンチフェミニズム」「ミソジニスト」と呼ばれる、主に男性たちはなぜ「男だって、割りを食っている(=差別を受けている)!」と「男/女」という二項対立でのみ語りたがるのだろうか。

僕たちが生きているこの世界では、あらゆる属性に対して差別が存在している。
本書で描かれることもその差別の一つであって、決して「男性への批判」が主題にあるわけではない。

とはいえ、確かに多くの男がこの本を読んである種の「気まずさ」を抱くに違いない。僕自身、これまで清廉潔白な身で生きてているわけもなく、「あの時のあの一言は、自分の尺度で言ったことが傷つけていたんだろうな」と自分自身の身の振り方を反省している次第である。

そういう意味では本書は女性以上に男性が読んで、「女性から見える社会や、放置されている理不尽」を認識すべき必読の書であることは間違いない。

一方でこの作品そのものが文学作品として好みかと聞かれると、あまりそうではないとうのが正直なところだ。一部の登場人物が「物語を動かす役目」を背負いすぎてしまって、セリフや行動に違和感を覚える部分がいくつか見受けられた。

しかしそれでも「男性キャラクターに名前をつけない」という仕掛けや、ラストの思わぬ展開はこの問題の根深さを象徴する重苦しいもので本書の長所であると感じた。
あくまで個人的な見解になるのだが、本書の語り部は一種のトリックが設けられているのかな、と思い記事を検索すると以下のような指摘があって膝を打った。

(※下記リンク記事はネタバレが含まれます)

韓国では映画も大ヒットを記録しているようなので日本での上映も近いうちにあるのだろう。とても映画向きな作品なので非常に楽しみである。

あと、本書に端を発した「韓国フェミニズム」ブームを受けて、韓国の短編小説をまとめた河出書房新社の文藝別冊がとても面白かった。

短編ゆえにテーマやモチーフがぎゅっと絞られて読み応えのある作品ばかりで、個人的にはこちらの方が好み。シンガーやアクティビストとして知られるイ・ランの小説も掲載されていて、昨今のSNS事情を的確に描いた本作は見事だった。

*1:にして、下書きのまま放置してしまった……