海辺にただようエトセトラ

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ナイチンゲール/The Nightingale

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イギリス植民地時代のオーストラリアを舞台に、夫と子どもの命を将校たちに奪われた女囚の復讐の旅を描き、2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞ほか計2部門を受賞したバイオレンススリラー。19世紀のオーストラリア・タスマニア地方。盗みを働いたことから囚人となったアイルランド人のクレアは、一帯を支配するイギリス軍将校ホーキンスに囲われ、刑期を終えても釈放されることなく、拘束されていた。そのことに不満を抱いたクレアの夫エイデンにホーキンスは逆上し、仲間たちとともにクレアをレイプし、さらに彼女の目の前でエイデンと子どもを殺害してしまう。愛する者と尊厳を奪ったホーキンスへの復讐のため、クレアは先住民アボリジニのビリーに道案内を依頼し、将校らを追跡する旅に出る。主人公クレア役はドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のアイスリング・フランシオシ、ホーキンス役は「あと1センチの恋」のサム・クラフリン。ビリーを演じたオーストラリア出身のバイカリ・ガナンバルが、ベネチア映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。監督は「ババドック 暗闇の魔物」のジェニファー・ケント。(https://eiga.com/movie/89563/より)

9.5/10.0

差別の構造が複雑に入り組むオーストラリア(=ひいては人間社会)を、鮮やかな語り口で見せる傑作映画。

序盤の強烈で容赦ない暴行描写は目を背けたくなるが、監督は現実を直視し誠実に描き出す。女性が、そしてアイルランド人の受けた苦痛を丹念に描き出す。
そしてオーストラリアの差別構造で最も非人道的扱いを受けているのが、オーストラリアの先住民であるアボリジニだ。
アボリジニであるビリーは、クレアが大陸横断するために「案内役」として雇われるのだが、彼女はあからさまな拒否反応を示す。彼女にとっては流刑先であるオーストラリアに住まう原住民は「忌むべき存在」なのだ。
ビリーも普段は軍人の案内を行うため「なぜ女を案内するのか?」と疑わしげで、二人の旅を描く序盤は観る側も心穏やかではない。

しかし本作はリベンジ・スリラーのフォーマットをなぞりながらも、その根底にあるのは「他者への寛容」にほかならない。
アイルランド人とアボリジニ、両者に共通するのは「イギリスによる侵略」であるが、そう単純にはくくれない。文化の全く異なる彼らが互いに心を通わす––というか、傷の見せ合いによって、社会全体の歪み(=虐げられているのは自分だけではないを認知していく様は圧巻。

最も印象的だったのが互いの故郷の歌を歌い合うシーンだ。ある意味非現実的なのだがフィクションがなせるストーリーテリングを見せられた。

パンフレットも600円と安価ながら文字量が多く読み応え十分。監督を始めとする俳優陣のインタビューも読めるのでおすすめしたい。