東京オリンピック・パラリンピックが抱える諸問題を徹底検証.市民がこうむる多大な負担,過度な重圧に晒されるアスリートたち,歪められるスポーツのかたち,そしてますます不自由になる社会…….「決まったものは成功させよう」という思考停止を抜け出し,「こんな祭典は必要ない」とハッキリ言うための論点を提示する.
「岩波ブックレット」という、岩波書店から出ている小冊子シリーズがある。このシリーズは、現代社会で話題になっているものをテーマにし、70ページほどで語られる。価格も500円ほどなどで気軽に読めることが利点だ。
とのことで、論調は割とリベラル寄りのものが多い印象である。
今回手に取ったのは、人によっては「みんなが楽しむムードをぶち壊しにするな!」と怒り出しそうなタイトルであるが、冒頭の紹介文にもある通り「決まったものだから成功させよう」という同調圧力や、そもそも「みんなで成功させる」の「みんな」って? 何をもって「成功」なの? など、ニュースを目にするたびに予算が膨張し、「低予算五輪」という嘘も目に余る状況なので一読することに。結果、いくつか気づきがあったので書き記しておきたい。(※まだ詰めたい部分もあるので追記予定です。)
7.0/10.0
読んだ感想として
「どうせやるなら」という、賛成派への批判
「もう決まったことなんだから」という思考に人間は陥りがちだ。
というかこう判断した時点ですでに「思考はやめている」と言った方が適切だが、とにかく誰もがそう考えがちだと思う。
本書はそういった「どうせやるなら派」が無責任にオリンピックを推進してしまっているという指摘を痛烈に行う。
同時に、「復興五輪」「一人ひとりが参加し成功させよう」というこれまでよく耳にした言葉の実の伴わなさにも苦言を呈す。聞こえのいい、大きな展望を語ろうとも実現するためには多くの力が不可欠で、その犠牲となっているモノ、ヒト、カネにまつわる事実は確かに今の日本で開催する意義について疑問を抱かせる。
「批判前提」になっている
一方で少し残念なのは、本書があまりにも批判前提になっていること。それこそ本書内で定義している「どうせやるなら派」の人が読んだら「自分たちをバカにしている」と思ってしまう。こう言った本は彼らを説得してこそ「オリンピックを今の日本で行う必要性」について、建設的な議論ができるはず。*1
ページ数の都合もあると思うのだけれど、冊子全体の論調にグラデーションを持たせて欲しかったというのが正直なところ。
一方でこの過激なタイトルだからこそ手に取る読者もいるだろうから難しい……。
「オリンピック=サーカス」という思考について
古代ローマより「パンとサーカス」という、いわゆる愚民政策を表現する言葉がある。市民の政治への関心をそらすため、「パン=食べ物」と「サーカス=娯楽」を与え続ければ良いという政策だ。本書でもこの言葉を用いて、オリンピックにたとえている。
ちなみにここでいう「サーカス」とは、いわゆる動物や曲芸師たちによるショウのことではなく、戦車による競争や、闘技場での決闘といった「スポーツ観戦」に相当するものだ。
余談だが今年日本で上映した、ディック・チェイニー*2の半生を振り返る映画『バイス』でも、冒頭のナレーションでかなり似た表現があった。
国民の目を政治からそらすためには、仕事で忙しくさせて、娯楽を与えていれば良い
今だとSNSを筆頭に「ネットでのバズ」が面白がられる時代だ。
具体的に「誰の」「何」とは挙げないが、為政者のアクションに関して「それって政治に本当に必要なの?」という目線を持って日々を過ごしていきたいと思う。
僕の好きなバンド、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの最新アルバムには、「サーカス」という曲が収録されている。
あまり深読みをするのも野暮だが、この曲の歌詞ではピエロや動物たちが織りなすきらびやかなエンターテインメントの描写はない。
あまり楽しそうに思えない「サーカス会場」が一体何を指すか。それぞれが聞いて解釈して欲しいと思う。