海辺にただようエトセトラ

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KREVA 『新人クレバ』

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当時人気絶頂にあったKICK THE CAN CREWの活動休止後にリリースされた「デビューアルバム」。2004年発売。

M-1 Dr.K
M-2 DAN DA DAN feat.CUEZERO
M-3 音色
M-4 あ・ら・らTake you home
M-5 お祭クレバ
M-6 ファンキーグラマラス feat.Mummy-D from RHYMESTER
M-7 スタンド・バイ・ミー feat.KANA from THC!!
M-8 Skit/Dr.K診療所
M-9 WAR WAR ZONE feat.CUE ZERO
M-10 You are the NO.1<Hey DJ> feat.BONNIE PINK
M-11 You know we rule feat.NG HEAD
M-12希望の炎
M-13 ひとりじゃないのよ<Album Version> feat.SONOMI
M-14 Baby Dancer / Home Grown Remix

8.0/10

今改めてこのアルバムを聞くと、「新人」であることに対して非常にメタ的な視点を持ち込んだ、とてもコンセプチュアルな作品に感じる。
すでに紅白にも出ており、知名度充分であったであろう自分の立ち位置をリセットしたいという、意欲的な姿勢がシンプルなビートと強気のラップで表現されている。

INTRO(M-1)から、

「ビート俺、ラップ俺」

「格の違いを端から気付かせる(中略)はっきりさせたるぜ事実関係Ha?」

とギラついたラップを繰り出し、続くM-2でもCUE ZEROのお囃子(というか太鼓持ち)をバックにひたすらセルフボーストをかます。
ボーストの内容も「どこそこのグランプリ/軽く取っちゃうダンスビート/作った俺のイカしたドラムパターン」など、意識的にDQN感を出していて結構痛快(韻も固いしね)。

次のM-3は、彼の代表曲とも言える「音色」。一聴すればラブソングだが、Common「I Used  To Love HER」から脈々と続く、ヒップホップを擬人化することでアーティストが音楽と向き合った楽曲の系譜だ。
コモンのそれはビジネスの要素が強まり、芸術的な魅力を失いつつあるヒップホップを、かつて付き合っていた純真な女の子がビッチに変わるように例えて嘆く曲だ。しかしクレバは音色でいまだに音楽(ヒップホップ)を、「手の届かない存在」として描き、焦がれる想いを表現する。

ヒップホップの表現をより豊かにしたいが、自身の実力がまだ伴っていないという葛藤すらも楽曲に仕上げたこの曲は、その想いの強さゆえ普遍性を持ち、一般層にまで浸透していったのだろう。
続くM-4〜6のパーティチューンも多種多様で面白いが、Skitを挟んで展開される後半のゴリゴリのラップも良い。Skitで「打ち込みで曲を作るのは手間だから、サンプリングでループ組んで曲作りましょう!」という自虐ネタを挟みながら、サンプリングに偏った曲構成になるのもニヤリとさせられる。
この中でも白眉なのが、後のクレバのスマートなラップスタイルの元祖とも言えるM-10や、オートチューンの先駆けとも言えるM-12だ。

こうして本作を聞き返すと今現在の「クレバらしさ」は、確実に活動初期からブランディングされていたのだなぁと、つくづく思う。
20代ヒップホップ好きにクレバ作品のベストを挙げてもらえば、半分は本作になると思う(次に心臓かな)。それくらいシンプルにクレバの魅力が凝縮された作品だ。

M-3 音色

 

M-12 希望の炎

 

M-13  ひとりじゃないのよ(feat. SONOMI)