海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

勝手にふるえてろ(映画)

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芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説の映画化で、恋愛経験のない主人公のOLが2つの恋に悩み暴走する様を、松岡茉優の映画初主演で描くコメディ。OLのヨシカは同期の「ニ」からの突然の告白に「人生で初めて告られた!」とテンションがあがるが、「ニ」との関係にいまいち乗り切れず、中学時代から同級生の「イチ」への思いもいまだに引きずり続けていた。一方的な脳内の片思いとリアルな恋愛の同時進行に、恋愛ド素人のヨシカは「私には彼氏が2人いる」と彼女なりに頭を悩ませていた。そんな中で「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこう」という奇妙な動機から、ありえない嘘をついて同窓会を計画。やがてヨシカとイチの再会の日が訪れるが……。監督は「でーれーガールズ」の大九明子。2017年・第30回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、観客賞を受賞した。http://eiga.com/movie/86705/より)

9.3/10.0

期待はしていたのだが、まさかここまで素晴らしい映画だと思っていなかったので、見ている最中はアドレナリンが止まらなかった。「こりゃとんでもないファッキン・オーサム・ムービーだぜ!」と、胸中で喝采をあげっぱなしになっていました。

侮りまくっていたのが、主演の松岡茉優ちゃんの演技。彼女に関してはドラマの「ウチの夫は仕事ができない」をチラ見していた程度なので、「可愛らしい女の子もいたもんだなぁ」くらいの印象しかなかった。
しかし、スクリーンに映る彼女の非モテの再現度や、リア充に対する「本能で生きている人間」というやっかみがあまりにもリアルで「この子、ひょっとすると“こっち側”の人間なのか?」と思うこと間違いなし。

対する「ニ」役の渡辺大知もかなりの演技巧者。「色即ぜねれえしょん」のころから素朴な演技が魅力的に感じていたが、今回は恐らく人生で全く経験のないであろうサラリーマン役も上手く演じていた(まぁキャラクターそのものは適役という感じだけど)。正直本職のバンドの評判はさっぱり聞かないが、演技はマジで凄い(ドラマ版の火花も良かった)。

物語の構成が実に見事で、ネタバレ厳禁な展開が後半は待ち受けているのだが、この展開も「オタクの脳内(自意識)を丸裸にされる」ような、心が痛いやら恥ずかしいやら、わかってもらえて嬉しいやらで言語化不可能な気持ちにさせられる。この感覚は劇場で体感してもらうしかない!

しかし製作陣も、こんな映画を12月23日を封切り日に設定するんだから意地が悪いよね。並大抵の価値観持っている人なら、クリスマスの時期にこんな映画観ないもん。だからこそ、この時期に観た人たちの脳裏には、一生忘れられないくらいにこびりつくと思う。
果たしてそれが傷なのか癒しなのか、今でも整理がつかないのが正直なところ。

でも一つだけ言えるのは、劇中の松岡茉優渡辺大知も、痛々しいなりに真正面から目の前のことに飛び込んでいったことだ。傷つく・つかないにビビるな! 周りを「自分は違う」と蔑むな! 凝り固まった自意識に鬱ぎ込むな! その先に何があるか知らん! ただ、いくら打ちのめされても、俺たちには「勝手にふるえてろ」がある!

それだけで十分なんだ。たぶん。