2016年・第69回カンヌ国際映画祭で批評家連盟賞を受賞した、フランス人女性監督ジュリア・デュクルノーの長編デビュー作品。厳格なベジタリアンの獣医一家に育った16歳のジュスティーヌは、両親と姉も通った獣医学校に進学する。見知らぬ土地での寮生活に不安な日々を送る中、ジュスティーヌは上級生からの新入生通過儀礼として、生肉を食べることを強要される。学校になじみたいという思いから家族のルールを破り、人生で初めて肉を口にしたジュスティーヌ。その行為により本性があらわになった彼女は次第に変貌を遂げていく。主人公ジュスティーヌ役をデュクルノー監督の短編「Junior」でデビューしたガランス・マリリエールが演じる。(http://eiga.com/movie/87063/より)
7.9/10.0
「食べちゃいたいくらい好き」を文字通り映画にした本作は、鑑賞後はちょっとユッケが食べづらくなる後遺症が残るが、その代償をもってしても、見ごたえのある映画だと思う。
かつてベジタリアンであった少女が「肉を食べる」、特に「人肉を食う喜び」を覚えてしまいつつも、欲望とモラルの間で葛藤する様は先読みができず、一級のサスペンスとしても楽しめるが、その切実な葛藤を見つめ続けると切ない青春ドラマとしても受け取れる。
冒頭で取り上げた画像は、劇中に主人公がルームメイトのゲイの少年のサッカーを眺めているシーンだ。上裸でサッカーをする少年のたくましい肉体に(文字通り)舌なめずりをして眺めつつも、「食べたい欲求」を理性でとどめようとする。
一方、鼻血は垂れだして止まらない……と踏んだり蹴ったりな状況がシリアスなタッチでカメラに収められる。
文字にすると非常にみっともない画であり、それはもちろん恋愛に翻弄されて一喜一憂する姿のメタファーなのだろう。
芽生えた感情に一直線になれない少女の苦悩を、ホラー色にまとめ上げた合わせ技は見事だと思った。
また、舞台となる学校は獣医学部だ。作中では犬の解剖や大型動物の直腸検査など、生々しいシーンが逐一挿入される。「他者」と接する、すなわち「命」と向き合うことは決して綺麗なことではなく、むしろ醜いことを受け入れてからこそ始まることを、強烈なビジュアルとともに提示している。
一つの映画としてとても楽しめたが、個人的には昨年鑑賞した『ネオン・デーモン』にテーマや映像の質感が似通っているように感じ、点数は少し厳しめにした。
音楽の使い方や演技、耽美な演出は『ネオン〜』の方が上手に感じたからだ。