海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

僕たちは希望という名の列車に乗った/Das schweigende Klassenzimmer

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ベルリンの壁建設前夜の東ドイツを舞台に、無意識のうちに政治的タブーを犯してしまった高校生たちに突きつけられる過酷な現実を、実話をもとに映画化した青春ドラマ。1956年、東ドイツの高校に通うテオとクルトは、西ベルリンの映画館でハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を見る。自由を求めるハンガリー市民に共感した2人は純粋な哀悼の心から、クラスメイトに呼びかけて2分間の黙祷をするが、ソ連の影響下に置かれた東ドイツでは社会主義国家への反逆とみなされてしまう。人民教育相から1週間以内に首謀者を明らかにするよう宣告された生徒たちは、仲間を密告してエリートとしての道を歩むのか、信念を貫いて大学進学を諦めるのか、人生を左右する重大な選択を迫られる。監督・脚本は「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」のラース・クラウメ。(https://eiga.com/movie/89977/より)

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カズオ・イシグロ『日の名残り』(ハヤカワepi文庫)

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英国の日系人作家であり、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの1989年刊行の長編小説。本書で世界的に権威のある文学賞ブッカー賞を受賞。

格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞ブッカー賞受賞作。(Amazonより)

9.5/10.0

読書家にとっては「いまさら!?」と驚かれること必至だろうが、そうなんです。いまさら、カズオ・イシグロを読んでいます。

学生の頃に大傑作の『わたしを離さないで』を読み、リアルタイムで『忘れられた巨人』で脱落し、つい先日デビュー作『遠い山なみの光』を読み非常に感銘を受け、ついに本書を手に取った。

イシグロは執筆当時なんと35歳。いったいどんな経験をすれば、こんなにも人生の重みを感じさせる小説を書けるのだろうというレベルの傑作だ。

過去のアマゾンレビューを見ると「いずれこの方はノーベル賞をとるでしょうね」という投稿があったが、それも納得。
というのも、イシグロはいわゆる観念的な(難しい)文学というよりは、わかりやすいモチーフを用いて、物語で読者をうならせる小説家だ。従って僕たちのような小説の素人にも、「小説としての凄み」が分かりやすく作品を通して伝わってくる。
同じくノーベル賞候補とされている村上春樹とはまた異なるタイプの作家だが、本国イギリスでも多くの方に愛されていることだろう。

閑話休題。本書は、英国の格式高い(と思われる)屋敷で親子2代に渡って執事を務めた男が、新しい米国人の主人の元で取った休暇の最中に、1920〜30年代の屋敷での日々を思い返す形で物語が紡がれていく。

1956年のイギリスが舞台である本書は、かつては世界の頂点であったイギリスへのノスタルジーで埋め尽くされていて、セピア色の小説ともいえる。
象徴的なのは主人公スティーブンスの現在の雇用主が、英国紳士から米国人実業家になっている点だ。これが、かつての栄華を極めたイギリスがそこ(1956年現在)にはないことを、最も端的に表している。

執事らしく雇用主に忠実で、控えめな性格のスティーブンスが語る過去の日々は、かなり回りくどく、時にはディテールをぼやけさせる。
そしてこの小説の作りが、本作の根幹であり魅力である。敬愛する以前の主人の人格の素晴らしさや、仕事ぶりを褒め称える挿話が続くのだが、後半になるにつれて次第に引っかかる部分が増えていく。その、「疑問とも言えない引っかかり」を持ったまま読み進めると、最後に訪れる展開にイギリスという国の没落そのものが透けて見えるのだ。

しかし、本書はただ単に時代に取り残されたノスタルジアにまみれた小説ではない。
ネタバレを避けて書くとすれば、スティーブンスが最後に決心する「あること」が、非常に些細ながらも過去の栄光からの脱却を試みる一歩といえるもので、イギリスが進むべき姿勢にも重ねられる。

この記事ではスティーブンスが休暇を取る目的はあえて省かせてもらったが、こちらにも胸を締め付ける物語がある。ぜひ本書を読んでいただき確かめていただきたい。

【余談】

文庫本に収録されている丸谷才一の解説が、ネタバレもあるけど非常に素晴らしく本書の魅力を伝えている。*1ぜひとも解説も含めて読んでいただきたい。

*1:というか、彼の文章に感化されて記事を書きました。

小笠原博毅、山本敦久『やっぱりいらない東京オリンピック』 (岩波ブックレット)を読んで

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東京オリンピックパラリンピックが抱える諸問題を徹底検証.市民がこうむる多大な負担,過度な重圧に晒されるアスリートたち,歪められるスポーツのかたち,そしてますます不自由になる社会…….「決まったものは成功させよう」という思考停止を抜け出し,「こんな祭典は必要ない」とハッキリ言うための論点を提示する.

https://www.iwanami.co.jp/book/b432937.htmlより)

岩波ブックレット」という、岩波書店から出ている小冊子シリーズがある。このシリーズは、現代社会で話題になっているものをテーマにし、70ページほどで語られる。価格も500円ほどなどで気軽に読めることが利点だ。

憲法平和人権環境などがテーマとなっているものが多い。(Wikipediaより)

とのことで、論調は割とリベラル寄りのものが多い印象である。

今回手に取ったのは、人によっては「みんなが楽しむムードをぶち壊しにするな!」と怒り出しそうなタイトルであるが、冒頭の紹介文にもある通り「決まったものだから成功させよう」という同調圧力や、そもそも「みんなで成功させる」の「みんな」って? 何をもって「成功」なの? など、ニュースを目にするたびに予算が膨張し、「低予算五輪」という嘘も目に余る状況なので一読することに。結果、いくつか気づきがあったので書き記しておきたい。(※まだ詰めたい部分もあるので追記予定です。)

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ミヒャエル・ハネケ監督作品 ショート感想集

昨年観た『ハッピーエンド』で、「なぜ今までスルーしていたのだろう!」というくらいミヒャエル・ハネケ監督ドンピシャだったので、代表的な過去作をレンタルで鑑賞。

前回の『響け!』シリーズの記事同様、ショート感想集をお届けします。
掲載は製作順。

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「響け!」シリーズ劇場版 ショート感想集

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京都アニメーションが制作した、弱小高校吹奏楽部が全国コンクールを目指す『響け! ユーフォニアム』シリーズの最新作が公開された。*1
昨年公開された番外編とも言える『リズと青い鳥』をレンタルで視聴したところ、とてつもなく素晴らしい作品だったので劇場版過去2作も視聴し、最新作である『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』も劇場で鑑賞。

以前吹奏楽部の知り合いに、「吹奏楽部は運動部と文化部の嫌な部分が合わさっためんどくさい部活」と聞いていたのだが、本シリーズも確かにそういった側面が描かれたりもしていて、いわゆる「萌え」一辺倒な作風ではないので普段アニメーションを観ない人でも楽しめると思う。

残念ながらアニメシリーズは未見なのだが、各作品の感想を短めに書いていきたいと思う。紹介は公開順。

*1:原作小説もあり。

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アイドルに「不完全性」を求めること

連日の気温の寒暖差が激しいせいか、体調を崩してしまった。
体調が良くないと頭もうまく回らないし、頭がうまく回らないと仕事もうまく進まない。
そんな時に仕事と関係ないことに考えを巡らし、文章にしていくと不思議と頭がチューニングできて心が整理され、体調も良くなり仕事もうまくいき、年収も上がる(嘘)

ということで、今回は前々からちょこっと考えていたアイドルについての文章を書こうと思う。
といっても、僕自身アイドルに詳しいわけではないので見当違いな記述があったらすみません。あとアイドルに詳しい人にとっては、目新しいことは一切書かれていないと思います。

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ペパーミント・キャンディー/Peppermint Candy

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※以下に映画.comのあらすじを引用していますが、物語の構成にも言及しているので、少しのネタバレも苦手な方は読まれないことをお勧めします。あらすじに続く僕の記事も同様。

韓国現代史を背景に1人の男性の20年間を描き、韓国のアカデミー賞である大鐘賞映画祭で作品賞など主要5部門に輝いた人間ドラマ。「オアシス」「シークレット・サンシャイン」のイ・チャンドン監督が1999年に手がけた長編第2作。99年、春。仕事も家族も失い絶望の淵にいるキム・ヨンホは、旧友たちとのピクニックに場違いなスーツ姿で現れる。そこは、20年前に初恋の女性スニムと訪れた場所だった。線路の上に立ったヨンホが向かってくる電車に向かって「帰りたい!」と叫ぶと、彼の人生が巻き戻されていく。自ら崩壊させた妻ホンジャとの生活、惹かれ合いながらも結ばれなかったスニムへの愛、兵士として遭遇した光州事件。そしてヨンホの記憶の旅は、人生が最も美しく純粋だった20年前にたどり着く。2019年3月、イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」公開にあわせて、4Kレストア・デジタルリマスター版が日本初公開。

https://eiga.com/movie/49159/より)

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