海辺にただようエトセトラ

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逆転のトライアングル/Triangle of Sadness(リューベン・オストルンド監督,2022年)

「フレンチアルプスで起きたこと」「ザ・スクエア 思いやりの聖域」など、人間に対する鋭い観察眼とブラックユーモアにあふれた作品で高い評価を受けてきたスウェーデンの鬼才リューベン・オストルンドが、ファッション業界とルッキズム、そして現代における階級社会をテーマに描き、2022年・第75回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した人間ドラマ。第95回アカデミー賞でも作品、監督、脚本の3部門にノミネートされた。

モデルでインフルエンサーとしても注目を集めているヤヤと、人気が落ち目のモデルのカール。美男美女カップルの2人は、招待を受けて豪華客船クルーズの旅に出る。船内ではリッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでもかなえる客室乗務員が笑顔を振りまいている。しかし、ある夜に船が難破し、海賊に襲われ、一行は無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態のなか、人々のあいだには生き残りをかけた弱肉強食のヒエラルキーが生まれる。そしてその頂点に君臨したのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃係だった。

オストルンド監督は本作で、前作「ザ・スクエア 思いやりの聖域」に続いてパルムドールを受賞し、史上3人目となる2作品連続のパルムドール受賞という快挙を成し遂げた。ヤヤ役は、2020年8月に32歳の若さで亡くなり、本作が遺作となったチャールビ・ディーン。カール役は「キングスマン ファースト・エージェント」のハリス・ディキンソン。そのほか、フィリピンのベテラン俳優ドリー・デ・レオンや、「スリー・ビルボード」「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」のウッディ・ハレルソンが共演。(https://eiga.com/movie/97017/より)

9.5/10.0

寡作ではあるものの、前作前々作と確実にツボにハマる傑作映画を届けてくれるリューベン・オストルンドの最新作ということで、非常に楽しみだった一本。
前2作と共通するが、やはり映画冒頭のシーンが素晴らしい。

ブログタイトル直下にも引用しているが、男性モデルがオーディションのために控え室にいるシーンが映される。
控え室にはリアリティショーらしき撮影クルーもおり、インタビュアーがモデルたちに取材を行っている。取材の終盤、インタビュアーはモデル候補たちを集めてカメラで収める。「ニッコリ笑う表情ならH&Mのモデル」「金持ちを睨み付ける表情ならバレンシアガのモデルよ」と言いながら。

これは一見対極にあるファストファッションハイブランドでも、「表情の違いだけで起用するモデルは変わらない」転じて、「大抵のものは見せ方が異なるだけで、本質は一緒」という本作に通底する皮肉なメッセージが込められている。*1

我々人間は、己の見栄のためのマウントに勤しみ過ぎているのではないか。そうした虚飾が取っ払われた世界ではどうなるのか……そんな考えを面白おかしく、なおかつ意地悪く映画にしたのが本作ともいえる。

前半の豪華ヨットクルーズでは、社会的に成功した人物たちがこれ以上なく嫌味ったらしく描かれていく。

たとえば穏やかな老夫婦に主人公カップルが仕事を尋ねると、「世界の平和維持のための仕事よ」と言う。
「具体的には?」と深掘りすると「地雷と手榴弾の製造」「地雷は国際法違反になったけど、別の兵器を開発して設けることに成功したわ」などと言い出す。

他にも、旦那が同行している愛人とべったりしているので、手持ち無沙汰となった老婦人がヨットクルーに「私たちのように優雅に過ごせないクルーのみんなが気の毒だから、これから全員水着で泳いで!」と無茶振りし出したりする。

そんないや〜な金持ちたちが揃いも揃って大シケの揺れでゲロ塗れになる船長ディナーと、テロリストに襲われる展開は正直めちゃくちゃ過ぎて好みが分かれるだろうが、ひねくれた人間にはたまらない面白さが詰まっている
(まぁ本来、他人の不幸はゲラゲラ笑うものではないだろうが、あくまでフィクションを楽しんでいるということで、ご容赦ください。)

後半からはヨット内にあったはずのヒエラルキーがタイトル通り逆転し、ある人物が権力者になっていく様も見応えたっぷりなのだが、これは是非それぞれが体感していただきたい。

www.youtube.com

*1:個人的には、「その見せ方の違い」を楽しむのがファッションの楽しみ方であると思うけども。