海辺にただようエトセトラ

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バクラウ 地図から消された村/Bacurau(クレベール・メンドンサ・フィリオ監督,2019年)

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アクエリアス」で注目を集めたブラジルの新鋭クレベール・メンドンサ・フィリオ監督が手がけ、第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した作品。村の長老・老婆カルメリータが亡くなったことをきっかけに、テレサは故郷の村バクラウに戻ってきた。しかし、テレサが戻ったその日から、村で不可解な出来事が次々と発生。インターネットの地図上から村が突然姿を消し、村の上空には正体不明の飛行物体が現れる。さらに、村の生命線ともいえる給水車のタンクに何者かが銃を撃ち込み、村外れでは血まみれの死体が発見される。めったに訪れることのない他所者が村を訪れたことをきっかけに、暴力と惨劇が幕を開ける。「アクエリアス」から引き続きフィルオ作品への出演となる「蜘蛛女のキス」のソニア・ブラガ、ブラジルを代表する若手女優バルバラ・コーレンのほか、「奇跡の海」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の怪優ウド・キアらが顔をそろえる。(https://eiga.com/movie/91141/より)

8.8/10.0

Netflixにて鑑賞。劇場予告で気になっていたもののタイミングが合わずに観られなかったので、早々に配信されてとてもありがたかった。

というのも肝心の予告がなんともケレン味ありのトンデモ感満載だったのもあって少し尻込みしてしまっていたのだ。
しかし実際見てみると、意欲的かつなんとも真っ当な精神のもと制作された映画であると感じた。

序盤の舞台となる村の描写が非常に秀逸。長老の死を知って帰省してきた(おそらく都会で暮らすであろう)主人公の目を借りて、独自のコミュニティを形成した村の様子が切り取られていく。
食事には当たり前のようにハエがたかり、小さなコミュニティ内には売春小屋が常設されている(おそらく、代々売春を生業とする一家が村に暮らしている)。なんとも閉塞的な、それでいて嫌悪を感じさせる描写が続くのだが、再選を狙う市長が来たあたりから物語が変容していく。*1

予告でも書かれている通り、本作は非常に寓話的な物語の構成となっており、アンチグローバリズムを掲げていると言ってもいいだろう。

【以降、物語の展開に触れます。(個人的にはネタバレと認識していませんが、気になる方は気をつけてください)】

 

再戦を狙う市長は、票田とならないバクラウ村を疎ましく感じており、村ごと消し去ってしまおうと画策している
文字通りウェブの地図から村の表記をなくし、村人たちを虐殺しようと殺し屋(らしき集団)を雇っているのだ。

文字にしてしまうと突飛すぎる設定なのだが、殺し屋たちの会話を聞くと英語を母国語にしていることに気付くと合点がいく。これは特殊な文化圏で生きる人を追いやり、欧米的な価値基準を押し付けようとするグローバリズムのメタファーにほかならないだろう。*2

「都会的な価値観が正義である」という先入観にNOを突きつける村人たちの結末がどうなるのか。序盤の伏線が効いてくる終盤の流れは、緊迫感がありエンタメ的にも非常に面白かった。

www.youtube.com

*1:この市長は村の水源でもある川を上流で独占しており、村人からは嫌われいる。

*2:事実、村人たちはコミュニティ内で誰かを差別したりしているわけではなく、平等に生活を営み、誰にも迷惑をかけていない