海辺にただようエトセトラ

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q(庵野秀明総監督,2012年)

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社会現象を巻き起こした庵野秀明監督によるオリジナルSFロボットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(1995~96)を、新たに4部作で描きなおす「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズ第3作。軌道衛星上に初号機とともに封印されていたシンジは、ミサトやアスカらの手により地上に戻され、目を覚ます。しかし周囲の状況は様変わりし、ヴィレという新しい組織に所属するミサトらは、巨大戦艦ヴンダーを駆使してNERV(ネルフ)と戦っていた。状況が理解できないまま困惑するシンジは、迎えに現れたレイの声に導かれてミサトらの下を去り、変わり果てたNERV本部へとやってくるが、そこで自分が眠っていた間に起こった恐ろしい真実を知ることになる。新キャラクターや新エヴァンゲリオンも登場し、TVシリーズにはなかった新たな物語が展開する。庵野秀明総監督の下、監督に摩砂雪鶴巻和哉前田真宏の3人があたる。活動休止中の宇多田ヒカルが新曲「桜流し」をテーマソングに提供。スタジオジブリ製作のミニチュア特撮短編「巨神兵東京に現る劇場版」が同時上映。(https://eiga.com/movie/57115/より)

8.5/10.0

本作でのあまりの大きな変化ぶりに、上映当初は正常にこの作品をジャッジできず、「取り敢えずネタにして消費する」ような状況が続いたように記憶している。
ただ、こうして「新エヴァ」が完結して4作を通しで観返すと、非常に納得感のある展開に思えてくるから不思議だ。

たとえば、最終作「シン・エヴァ」の公開直前に出されたこの動画。

www.youtube.comこれを観ていくと、主人公のシンジは常に「想定しない目覚め」を物語序盤で迎えているのがわかる。
『序』の記事でも書いたが、

「主人公のシンジが絶えず現れる困難に対し、どう行動を起こしていくか」が物語の根幹

であるという認識をより改めて強く持った。
一方そう考えると、本作の展開はシンジにとって過去最大級の困難が連続する、非常に辛い物語でもある。*1

  • 自分にとって大切な少女を救うため(=世界を救うため)に覚醒したら、世界を滅しかねないトリガーを引いていた
  • そういう状況を自分が作ったこともわからないままに、14年の時間が経過したし、周囲の人間が邪険に扱う
  • その救おうとしていた少女は、自分の母親をモデルとしたクローン(厳密には違うが)だったし、大量に作られている
  • 唯一の理解者たるカヲルは使徒であり、自分の目の前で死を迎える
  • カヲルの死因は自分の首についていた爆発式のチョーカーだった
  • 再度世界を救うつもりに起こした行動は、フォースインパクトのトリガーとなってしまう

ざっとさらっても、これだけショッキングな出来事が続いていく。シンジが絶望に打ちのめされ堕ちていく様は必然であるし、見ていて本当に辛い。

ただ、この物語にも一筋の希望は見える。序盤でシンジがアヤナミレイ(いわゆる黒波)に連れ去られた際チョーカーの爆発トリガーを引けなかったミサト、そしてシンジを「ガキ」と罵りながらもラストで彼の手を引くアスカ。

その「希望」を映し出すのが次作であり最終作になるのだろうなぁと思っていたが、まさか当時はおよそ10年近くも待たされるとは思いもよらなかった

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*1:そしてそれは同時に、庵野総監督のリアルタイムの心境でもあったのだろう