海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ヤクザと家族 The Family(藤井道人監督,2021年)

f:id:sunnybeach-boi-3210:20210224081009j:plain

「新聞記者」が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人監督が、時代の中で排除されていくヤクザたちの姿を3つの時代の価値観で描いていくオリジナル作品。これが初共演となる綾野剛舘ひろしが、父子の契りを結んだヤクザ役を演じた。1999 年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は、柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。その日暮らしの生活を送り、自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005 年、短気ながら一本気な性格の山本は、ヤクザの世界で男を上げ、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。2019年、14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。(https://eiga.com/movie/93189/より)

9.5/10.0

ヤクザ映画といえば強面の俳優たちの「仁義だ」「シノギだ」「戦争だ」という怒号と血飛沫が飛び交うジャンル映画としての魅力もあるのだが、何よりも極道という「社会からはみ出た人間」だからこそ見える「社会の歪み」を鋭く描いていくことが、最も魅力的な部分である。
本作を手掛けた藤井監督はよくその点を非常に熟知しており、一人の男(ヤクザ)の人生を通して平成〜令和の20年における「ヤクザ」の変容を背景に、この国の移り変わりを丁寧かつ鮮やかに描いてみせた。

何よりも 「20年」という時の移り変わりを演じ切っていく役者陣が素晴らしい。
チンピラをやらせたら右に出るものはいなかった市原隼人の、加齢を感じさせる哀愁あふれるたたずまい。*1
時代に翻弄され居場所をなくしていく侘しさが切ない北村有起哉
「昭和の昔気質のヤクザ」の擬人と言ってもいい舘ひろしが、病気というメタファーを通じて「ヤクザの終わり」を表現する背中。
そしてその背中に何よりも憧れ、時代に抗う「青さ」を表現した綾野剛全員が全員これ以上ない配役で、各人の生き様をスクリーンに焼き付けてくれた

こういう映画を褒めていると「ヤクザの存在を肯定するのか」みたいなご指摘を受けることもあるが、そうやって「肯定/否定」のように白黒つけるのでなく、まさに「グレーの部分」を描くことに魅力を感じているのだと明言しておきたい。

なので、「必要悪」だといってヤクザの存在を許すわけではないが、実際の暴対法ではいわゆる「半グレ」が野放しになっている状況でもある。
その点は本作でも描かれているが、結局半グレである彼らが、かつてのヤクザ稼業に似たビジネスをともすればより悪質に展開してしまっている状況であることは指摘したい。

暴対法とは本来「社会から暴力を排除する」ことが目的だったのに、杓子定規な法律の運用で、「今の社会に存在する暴力」を取り締まれないでいるわけだ。*2

ならば本当に危ないのは昔の社会なのか。それとも、今の社会なのか?

*1:彼の一連の騒動の顛末は、非道ながらも納得させられる説得力に満ちていた。

*2:このテーマに興味のある方は、ぜひ傑作ドキュメンタリー『ヤクザと憲法』をご覧いただきたい。