この連休中に炎上したRADWIMPSのフロントマン野田洋次郎の呟きだが、学生時代に彼の楽曲に触れてきて少なからず影響を受けた身としては、かなり考えさせられるものがあったので、記事としてまとめようと思う。
まず当該の呟きを以下に引用。
ちなみにこの呟き自体は少し前(7月16日)に投稿されたもの。
前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。
— Yojiro Noda (@YojiNoda1) July 16, 2020
お父さんはそう思ってる。#個人の見解です
【コピペ】
前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。 お父さんはそう思ってる
#個人の見解です
これに対する弁明的なツイートが以下。これも投稿日は7月16日。
めちゃめちゃ真面目に返信してくださる人いますが冗談で言っています、あしからず。 https://t.co/DiEkmP9D37
— Yojiro Noda (@YojiNoda1) July 16, 2020
【コピペ】
めちゃめちゃ真面目に返信してくださる人いますが冗談で言っています、あしからず
別に僕はネットでの炎上についての専門家ではないが、仕事柄言葉を扱うことが多いので以下にこのツイートがいかにアウトかを書いていきたい。
なお、以降の指摘は既出のものも多いと思いますのであしからず。
- ・発信内容に擁護の余地は一切ない
- ・「冗談で言っています」という弁明
- ・「前も話したかも」という前段の怖さ
- ・「大袈裟な表現」のまずさ
- ・ツイートに挙げた本人の努力を無視している
- ・そんなこんなで我が身を振り返る
- ・「何者か」になる必要はない
- ・呟いた背景を想像する
- ・彼らにもいい曲は多くある
・発信内容に擁護の余地は一切ない
そもそもの前提として、この一連のツイートの内容に擁護できる要素は一切ない、というのが僕の考えである。
たとえジョークだとしても呟くべきものではない。
・「冗談で言っています」という弁明
もちろん本気で言われていたらマジで怖いのだけれど、冗談でもこれを呟くこと自体がアウトだ。
この呟きは前のツイートへのリプライがシリアスなものが多かったから「本気に取らないで」という意思表示なんだろうが、これは本気に捉え、返信した人にとっては「バカにされた」という印象を与える。
しかもこの呟きがあながち冗談でなさそうなのがツイートの前段で感じ取れてしまうのも、今回の炎上を一層根深いものにしている。
・「前も話したかも」という前段の怖さ
当該のツイートにはご丁寧に「前も話したかもだけど」とある。前にも発信していたんかい。
この前段があることでより野田本人が「優生思想の持ち主」であるように受け取られてしまう。
もちろん本人にはそこまでの悪意はないのだろうけど、このツイートは「配偶者を決めてまで残すべき遺伝子」と「そうまでして残す必要のない遺伝子」転じて、「生まれる価値のない遺伝子」を無意識に分けてしまっている。
特に今はコロナ禍で仕事や住む場所を失い、生命の危機を感じている方も多い。そういうデリケートな状況下でのこのツイートは、受け手のダメージがより大きくなる。
・「大袈裟な表現」のまずさ
さらにはこの発想を、「国家プロジェクト」とか「(配偶者を)国が専門家を集めて選定」という言葉で修飾してしまったのがまずい。
「壮大なプロジェクトとして進めようぜ!」と、あえて大袈裟な表現をすることでジョーク度合いを強めたかったのかもしれないが、受け手からすると変にディテールが細かいので「そんなことを普段から考えているの!?」とギョッとしてしまう。
・ツイートに挙げた本人の努力を無視している
この点はマジで野田本人に伝えたいが、このツイートがたとえ当人たちへのリスペクトありきの発言としても、本人たちにも非常に失礼であるということだ。
野田の発想で言えば、「藤井棋聖は将棋の達人の遺伝子を持っているから、同じく将棋の達人である女性との間に子供を設けるべき」となるが、この考えは前提として藤井棋聖本人の努力を無視してしまっている。
藤井棋聖は「棋聖になる遺伝子」を持っていたわけでなく、「将棋が好きで努力をした結果、棋聖になった」のだ。それは同ツイートに挙げた大谷選手や芦田愛菜さんにも言えることだ。
・そんなこんなで我が身を振り返る
なるべく人の炎上を見た時は「そういうお前はどうなんだ」と自分に問いかけるようにしているが、こう言う発想をしていないかと言われると、過去にしていたこともあった。
以前w-inds.の橘慶太とアイドルの松浦亜弥が結婚して二人の間に子供が生まれたとき、w-inds.の、特に橘慶太のファンだった僕は「この子、将来絶対にスーパーアイドルになるじゃん!」と周りに言っていた気がする(し、実際思っていた)。
僕個人としては悪意のない発言だったが、これも優生思想の一端だろう。
・「何者か」になる必要はない
たぶんこういう発想って世界各地で起こっていて、野球選手の息子が「将来はプロ入りか?」みたいなことを言われるのって、たぶん挨拶レベルで浸透していることではないだろうか。
きっとその言葉を交わす当人同士に信頼関係があれば問題ないだろうけど、赤の他人が人の未来を安易に決めつけちゃうのはよろしくないことだ。
この世界に生まれたら必ず「何者かになる必要」はなく、ヒトは生まれたこと、もしくは生きていること自体が素晴らしいことを再確認する必要があると思う。*1自己評価が低くなりがちな日本では特に大切な考え方だろう。
・呟いた背景を想像する
ツイートの内容には何も賛同できないが、せめて呟いた背景を想像してみたい。 おそらく藤井棋聖が史上最年少でタイトルを獲得したニュースを、野田は晩酌でもしながら見ていたのだろう。そして「藤井棋聖は日本の誇りだ!」と思い、上記のようなツイートをしたのではないだろうか。
まぁそのレベルでの駄話は飲みの席でやるべきであって*2、Twitterで上記のようにガチガチに書かれるとトンデモ思想の発信にしかならない。
野田さんの例の発言は「たとえ冗談だとしても言っていいことと悪いことがある。TPO考えましょう」ということに尽きるのでは。
— 津田大介 (@tsuda) July 25, 2020
TPOってのは「飲み屋で酔って友達にこういう話するのまでは止められないでしょ」って話です。逆に言えば、そう思うことや、クローズドな場以外では批判されて当然の発言という意味ですよ。
— 津田大介 (@tsuda) July 25, 2020
思想・信条の自由は誰にでもあるべきだから、僕個人も上記の津田大介さんの意見が一番しっくりきた。
・彼らにもいい曲は多くある
RADというと「痛々しい恋愛ソングバンド」みたいな印象を持たれがちで、今回の炎上に乗っかってそう言う側面のみからのDissも横行しているので、それ以外にもいい歌はあると言っておきたい。
個人的に最も好きな曲は「アイアンバイブル」という曲だ。この曲は「すでに滅んでしまった人類」の生き残りが、新しい世代に「負の歴史」すらも語り継ぐことで失敗を繰り返さないでほしいと祈る曲だ。
この歌詞が野田本人にも今刺さっているんじゃないかなと思う。
炎上以降に彼も呟いていなく、恐らく僕の想像の及ばないほどの量の批判を受けてダメージも受けているだろう。
しかし真っ当な指摘は真摯に受け止めて、価値観をアップデートしてくれることを祈っている。
たとえ 世界が明日滅ぶとしてもね
ある人は言う 僕は今日リンゴの樹を植えよう
なら僕は言おう 明後日からの新しい世界に
間に合うように この世のすべてを書き遺すよ
拝啓 次の世を生きる全ての人へ
我らの美談も 悲惨なボロも いざ教えよう
次の世こそは決して 滅ぶことのない世界に
どうか我らの愛すべき 鎖を止めないで
世界の終わりの その前の日に
産まれた赤子に それでも名前をつけるよ 僕は
笑いかける 未来を纏う 君に語る
“その時”まで(「アイアンバイブル」より)