海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方/The Biggest Little Farm

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自然を愛する夫婦が究極のオーガニック農場を作り上げるまでの8年間を追ったドキュメンタリー。ジョンとモリーの夫婦は、愛犬トッドの鳴き声が原因でロサンゼルスのアパートを追い出されてしまう。料理家である妻のモリーは、本当に体によい食べ物を育てるため、夫婦で愛犬トッドを連れて郊外の荒れ果てた農地へと移住する。都会から郊外へと生活環境がガラリと変わった2人は、自然の厳しさに直面しながらも、命の誕生と終わりを身をもって学び、動物や植物たちとともに美しいオーガニック農場を作るために奮闘の日々を送る。映画製作者、テレビ番組の監督として25年の経歴を持つジョン・チェスターが、自身と妻、そして愛犬の姿をカメラに収めた。(https://eiga.com/movie/92228/より)

9.5/10.0

劇場で予告を見たときから気になっていたのだが、「LA」「オーガニック農場」という単語で反射的に「オシャレ夫婦のヒッピー的なスローライフを映すのか?」なんて思っていたら、基本的には「農業のとんでもない辛さ」をがっつり正面から描いたドキュメンタリーだった。

あらすじにも「オーガニック農場」とある通り、本作は農薬や除草剤などを使わず「自然の流れに任せた農業」を、その道のマスター(アラン・ヨーカー)の指示のもと進めていく。
劇中では「伝統農法」と称されるその農業の特徴は、とにかく「多様性を追求すること」
あらゆる種類の植物や動物を農場で育てることによって「自然の循環」を作り出し、豊潤な農場となることを目指すのだが、もちろんそんな農場は一朝一夕には成り立たない。

夫婦が買い取った200エーカーの土地は荒れ果てて土も死んでいる状態。早速マスターの教えのもと予算1年分を投じて「土作り」から始める。地下水を引くための大掛かりな工事や、土を豊かにするためにミミズや家畜を飼う。それでようやく一番の目標である果樹園・畑づくりに着手できるわけだが、取り扱うモノが多すぎるのであらゆる方面でトラブルが絶えない。
鶏は野生のコヨーテに襲われるし、果樹園の果物は野鳥に7割を食べられてしまって売り物にならず、野菜もネズミが食べてしまう。つまり、作物が豊富になればなるほどトラブルも比例して増えてしまうので、基本的に映画で映されるのは新米農家夫婦が悩み続ける姿だ。

しかし、本作の監督兼カメラマンである夫のジョン・チェスターが捉える農場や動物達の姿は「さすがプロカメラマン」と唸らされる。
東京ドーム17個分の大自然に豚や羊、牛達が佇んでいるだけでその美しさに魅了される。

詳しいことはネタバレになってしまうので省くが、自然が「ありのままであること」が、この農場において後半の重要なキーになっていく。
動物や農作物、つまりは自然とは、人間がコントロールできるものではないのだ。
人間の傲慢さが自然を壊して久しい昨今、改めてリスペクトを持って接する必要があるなと考えさせられる一本。