海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

i 新聞記者ドキュメント

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映画「新聞記者」の原案者としても話題を集めた東京新聞社会部記者・望月衣塑子を追った社会派ドキュメンタリー。オウム真理教を題材にした「A」「A2」、佐村河内守を題材にした「FAKE」などを手がけた森達也監督が、新聞記者としての取材活動を展開する望月の姿を通して、日本の報道の問題点、日本の社会全体が抱えている同調圧力や忖度の実態に肉迫していく。2019年・第32回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門に出品され、同部門の作品賞を受賞した。(https://eiga.com/movie/91764/より)

9.4/10.0

オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)」という組織構造のあり方をご存知だろうか。

男性優位の組織においては「男だけの暗黙の了解」として、明文化されていないしきたりや仕事上の便宜が生まれる。女性がそのコミュニティ内に入った時にそのルールを知らされずに困惑することがあり、それはもちろん社会における女性活躍の妨げになる。
そしてそれは、日本の大手企業には必ずといっていいほど存在する病理でもある。

本作で繰り返し流される「内閣官房長記者会見」の質疑応答を見ていると、この国の政治のど真ん中(あるいはジャーナリズムのど真ん中)においても、その病巣の存在が確認できる。

官房長官が毎日行う記者会見は、記者クラブと政府の間で「慣例」として行われているだけのもので、政府批判の核心に迫るような質問をして波風を立てる場ではない。

……そういう考えが無意識にでもできてしまった「OBN」内においては、「社会部出身」かつ「女性」である望月記者は“異物”に見えるのだろう。

「政権与党がどの政党になろうとも、そのアクションを逐一監視して間違いがあれば指摘する。それをやると“反日”とされるのはおかしい」

劇中では上記のような主旨の発言が何名かの口から発せられるがまさしくその通りで、その信念で取り組む望月記者の鋭い指摘や取材は見ていて痛快だ。

ドキュメンタリーの名手として名高い森達也がメガホンを取った本作は、最後は監督自身のナレーションで締めくくられる。派閥や徒党を組んで長いものに巻かれて勝ち戦を気取るのでなく、「個(i)」としてどうすべきか。そこを改めて考えていかないと、この国は経済しかり文化しかりますます排他的な雰囲気をまとって衰退していくのではないだろうか。

虚実織りまぜた劇映画『新聞記者』と比較すると、こちらはむき出し感が満載。個人的にはこちらの作品を推したい。