テレビドラマ化もされた新井英樹の人気漫画を池松壮亮主演、 ヒロイン役を蒼井優のキャストで実写映画化。「ディストラクションベイビーズ」の真利子哲也監督がメガホンをとった。超不器用人間ながら誰よりも正義感の強い宮本浩は、文具メーカーで営業マンとして働いていた。会社の先輩である神保の仕事仲間、中野靖子と恋に落ちた宮本は、靖子の自宅に招かれるが、そこに靖子の元彼である裕二がやってくる。靖子は裕二を拒むために宮本と寝たことを伝えるが、激怒した裕二は靖子に手を挙げてしまう。そんな裕二に、宮本は「この女は俺が守る」と言い放ったことをきっかけに、宮本と靖子は心から結ばれるが……。宮本役を池松、靖子役を蒼井、神保役を松山ケンイチらドラマ版のキャストが顔をそろえるほか、裕二役を井浦新が演じる。(https://eiga.com/movie/90564/より)
9.8/10.0
「もう一回観たいか?」と聞かれたら、「勘弁してください」と懇願すると思う。
それほどに本作は“熱”が凄まじく、観る者の精神を削り取っていく。
主人公宮本の、生命エネルギー溢れる、(一見)無鉄砲な言動がひたすらめまぐるしいからだ。
そして個人的な話になるが、映画の中で「あるシーン(行為)」だけは目をそらしてしまうほど非常に苦手で、本作にも物語上その「シーン」が入れ込まれる。
ネタバレになるから言えないが、この「シーン」を観てしまうと、めちゃくちゃテンションが落ちてしまい全ての気力を削がれてしまう。
しかし、そこまで精神を削られようとも、この映画は心を捉えて離さない。目を反らせない。
「個人と社会(と、呼ばれるもの)」を徹底して対比させ、令和と呼ばれる新しい時代すら吹き飛ばさんとする“力”が込められている。
全ての表現物に言えることでもあるが、「共感」だけを尺度に鑑賞を行うと、いつまでも心地の良いものばかりが市場に出回るだけで刺激が得られない。
なので「共感度100%」のようなことを宣伝文句で言われると辟易してしまう。そこには芸術にも、受け手にも成長がないと思う。
その点、この作品は「共感度」という物差しで測ってはいけない作品だ。むしろ、宮本に共感して彼の行動をトレースするようなことは非常に危険だと感じる。
宮本は、慣習やしきたりや惰性が渦巻く社会に生まれた人々の「鏡」のような存在だ。彼に抱く感情そのものは実は自分の欠点だったりする。
- 現実はこんなに甘くない
- 会社の上司をはじめとする周りの理解があるからこそ宮本は生きられる
こんな指摘は山ほどできる。
しかし、ならば宮本以上の「社会の先輩」として上記の言葉を投げかける人こそが、実はそんな社会を望んでいるのではないだろうか。
「現実は甘くない」のでなく「甘い現実」を作っていく。そんな風にギアチェンジをしていける力が、この作品には込められている。*1
そして原作未読でドラマを見た方に伝えたいのが、本作はいわゆる「ドラマの劇場版」、つまりは「ドラマの続編/完結編」という立ち位置の映画では全くない。
ドラマとは別次元のテンションで作られた作品だ。
不穏な雰囲気で終えたドラマの12話のラストに違和感を持った人は、作品の見え方が大きく変わると思う。
衝撃が待ち受けているので、覚悟をしつつ劇場に向かっていただきたい。
↑新井英樹作品だとやはり『ザ・ワールド・イズ・マイン』が一番好きだ。
*1:まぁタイトルがもろにそうなんですが