海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

斬、

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「野火」「六月の蛇」の塚本晋也監督が、池松壮亮蒼井優を迎えて描いた自身初の時代劇。250年にわたって続いてきた平和が、開国か否かで大きく揺れ動いた江戸時代末期。江戸近郊の農村を舞台に、時代の波に翻弄される浪人の男と周囲の人々の姿を通し、生と死の問題に迫る。文武両道で才気あふれる主人公の浪人を池松、隣人である農家の娘を蒼井が演じ、「野火」の中村達也、オーディションで抜擢された新人・前田隆成らが共演。「沈黙 サイレンス」など俳優としても活躍する塚本監督自身も出演する。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(https://eiga.com/movie/89402/より)

8.0/10.0

傑作『野火』を経ての監督最新作、なおかつ初の時代劇!ということで楽しみにしていた一本。上映時間は80分ということもあり、非常に無駄のないタイトな佳作だった。

塚本作品特有の超接写&手ブレの演出は本作でも冴え渡っており、冒頭の刀の製鉄(って言うのだろうか?)シーンからキメキメ。耳に刺さるような金属音を発しながら熱し作られる刀は、「正義の手段」というよりは「暴力の象徴」のように見えてくる。

そんな「暴力」を常に携行している、心優しい侍の苦悩を真正面に描き切ったのが本作である。

上映時間が非常に短いので、あらすじを追いすぎるとネタバレになってしまうので細かくは言及しないが、時代劇というフォーマットを使い「暴力の在り方」を描く本作は『野火』同様心に重く響く。

「その刀(=暴力)を抜く(=行使する)か」を自問自答し続ける池松壮亮演じる侍の姿は、否応無しにこの国の現状と重ねてしまう。
一口に時代劇といっても、典型的な勧善懲悪も、痛快なチャンバラ劇もこの映画のメインではない。

受け取った本人が鑑賞後に何に思いを馳せるのか、シンプルな分多様な受け止め方のできる作品だと思う。