海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

アンダー・ザ・シルバーレイク/Under the Silver Lake

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「イット・フォローズ」で世界的に注目を集めたデビッド・ロバート・ミッチェル監督が、「ハクソー・リッジ」「沈黙 サイレンス」のアンドリュー・ガーフィールド主演で描いたサスペンススリラー。セレブやアーティストたちが暮らすロサンゼルスの街シルバーレイク。ゲームや都市伝説を愛するオタク青年サムは、隣に住む美女サラに恋をするが、彼女は突然失踪してしまう。サラの行方を捜すうちに、いつしかサムは街の裏側に潜む陰謀に巻き込まれていく。「私たちは誰かに操られているのではないか」という現代人の恐れや好奇心を、幻想的な映像と斬新なアイデアで描き出す。サラ役に「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のライリー・キーオ。(https://eiga.com/movie/89004/より)

8.7/10.0

ヒッチコック」や「デヴィッド・リンチ」という言葉に惹かれて足を運んだ人なら必ず魅了されるフィルムであるが、一方で僕のような「生産性のないオタク」が観ると、思いの外ダメージがでかい映画でもある。

これでもかと出て来るポップカルチャーからのサンプリングはとてもきらびやかで、元ネタを知らなくとも“なんとなく”で楽しめる余裕を持っている。アルコールと大麻の混じった熱気をまとったLAの雰囲気も最高なのだが、主役のサムを観ていると、非常に大きな不安にかられてくる。

サムはカルチャーへの造詣が深いオタクで、LAで「ビッグになる」ことを夢に描き暮らしている。だが実のところクリエイティブな街に住む彼は職に就いておらず、愛してやまないカルチャーをひたすらに消費するだけの立場の人間だ。

そんな彼が自分の身に降りかかった、「ほんの少しだけ不思議な出来事*1」に深い意味を(勝手に)見出し、探偵めいた調査を始める。

サムは身の回りで起こる全てのことに対し意味づけを行なっていき、ファミコンのゲームやポップソングの歌詞といったポップカルチャーに潜む暗号を導き出していく。

やがて大きな陰謀めいたものに衝突していき……という筋立てなのだが、結局はサムのやっていることはオタクの域をでない行為だ。
それはまるで「この作品とあの作品が繋がった!」などと星座遊びに惚ける自分の姿と重なる。作品を前になんとか深い解釈をしようとしてしまう瞬間を否定できない自分がいるのだ。

そうやって暗い感情を持ちながら本作を観ていると、「謎解き」がメインのストーリーなのに「謎そのもの」が物語の着地点にならないのにも納得がいく。
結局、オタクの手グセは厄介なだけなのだ。*2

そんな感じでちょっぴり自分の空虚さと対面してしまっておセンチな気分になったが、救いもある。『ハクソー・リッジ』『沈黙』でも見事な演技を披露していた主演のアンドリュー・ガーフィールドだ。
エマ・ストーンとプライベートでも付き合うようになった『アメージング・スパイダーマン』の頃のイケメン感は消え失せ*3、自意識だけが肥大化してしまった哀れなオタクを見事に演じきっている。

作中ではガムを手に引っ付かせたまま、スパイダーマンのペーパーバックを手に取って、スパイディの「ウェブシュート」を模したセルフパロディな演出もあって笑わせてもらった。いい俳優になったなぁ。

*1:「いい感じになった女の子が翌日に姿を消した」こと、人生において一回くらいは経験するでしょ。

*2:悲しいかな、このブログも例外ではないのだろう。

*3:映画は駄作だったけど。