海辺にただようエトセトラ

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とよ田みのる『金剛寺さんは面倒臭い』1巻以下続刊(ゲッサン少年サンデーコミックス)

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このヒロインには、付け入る隙などない!

口を開けば正論!正論!正論!
金剛寺さんはいつも正しい!
おまけに学業優秀&柔道の名手!
隙などまったくない彼女に、
樺山くんは…よりによって恋をした!
彼の運命やいかに!?
面倒臭くてまっすぐな、ロジカルピュアラブストーリー!!

http://gekkansunday.net/series/kongoujiより。

ゲッサン』(2016年5月号)や『エクストリームマンガ学園』(第14回)にて掲載された読み切り短編を長編化したコミック。
読み切り版はエクストリームマンガ学園内で無料公開中。リンクはこちら

コミック第1巻は2018年3月12日発売。

 9.2/10.0

読み切り版の時点で分かりきっていたことなのだが、もうとにかく「最高」という言葉しか浮かんできません。キラキラしてイノセントで、ずっとこの世界を眺めていたいという気分にさせられる、大傑作マンガではないでしょうか。

マンガにとって、「物語に登場するキャラクターがいかに魅力的か」は重要な要素だろうが、本作の主人公カップルである樺山くんと金剛寺さんは本当にパーフェクト。
特に金剛寺さん、タイトル通り「面倒臭い」キャラと言えなくもないけど、彼女は常に目の前で起こる事象や人間関係について真剣に考えていて、その誠実さに惹かれる。

「人間って、これくらい本気で全てのことに向き合うべきなんじゃないか」とマンガのキャラから勉強させてもらっている状態です。それこそ「金剛寺さんの思考のループをずっと聞いていたい」と、嬉しそうに語る樺山くんとシンクロしながらページを捲っています。
超個人的な意見ですが、『波よ聞いてくれ』の鼓田ミナレさんと並ぶ、10年代ツートップヒロインです。


本作のジャンルをあえて言うなら「ラブコメ」になるのだろうけど、他のラブコメものにはない非常に大きな特徴がある。

それは「物語の主軸に関係ないエピソードが延々と挿入されること」だ。

たとえば、主人公の二人が川沿いを歩くシーンがある。川沿いには、犬の散歩をする中年男性や、キャッチボールをしている親子がいる。本来のマンガであれば、それらは「背景」としてスルーされるもので、物語でフォーカスされるべきは主人公たちのみであるはずだ。

しかしこのマンガは「本編とは大きく関わりの無い物語であるッ!」というナレーションとともに、すれ違う人、通り過ぎる事象たちの顛末にまで触れていく。先述した散歩中の犬の生涯や、キャッチボールをしていた少年が将来プロ野球選手になることが、結構な大きさのコマで語られる。なのでメインの物語が遅々として進まない
だが、それが本作のテンポを損なっているかというと、まったく違う。むしろどんどんページを捲っていきたくなる衝動にかられる。

こういったエピソードの挿入を、本作の「演出」や「ギャグ」として面白おかしく消費してしまってもいいのだが、第4話にて最強柔道家であり、現在は僧侶である金剛寺さんのお父さんのセリフに、この意図が隠されていると思う。

以下に引用するセリフは、金剛寺さんのお父さんに樺山くんが挨拶(と柔道の組手)を行うシーンで発せられるものだ。

もし君が私の娘と深くつながりたいと考えているならば、
私とも深くつながることになる。
人と人のつながりは君達だけでは終わらないのだ。

君の人生という名の物語に大きく関わり無いと思われる物が、
ある日大きくつながるのだ!!

ブコメで語られるべきは、主人公たちの恋の行方のみであるべきかもしれない。

しかし「他者とつながる」ということは、相手がこれまで歩んできた人生や、出会った人間、さらに言えば生活の基盤である社会ともつながることまで必要だ。
僕たちはそれらすべてに対して本来愚直に、誠実に向き合うことが求められている。

だからこそ、本作は街で起こること全てに対して等しい熱量で触れて、本編にぶち込んでいく。たとえ主人公の人生に直接の影響がなかったとしても、何かのピースが欠けていたら「本編のこの展開も生まれ得なかった」とでもいうように、丹念に描かれていく。

その熱量や尊さに、作者と、この物語が持つ大きなLOVEを感じざるを得ない。

本作は3話のラストで「この物語は必ずハッピーエンドを迎えるッ!」と力強く言い切っている。こういった人を食ったような演出は本当に痛快だ。

「ハッピーエンドとわかりきった物語なら、読む必要はないのでは?」

そんなことはない。この先この世界で何が起き、どんな人が生活を営んでいるのか、1巻を読んでから気になって仕方がないからだッ!

 

【追記】

ググってみたら作者のとよ田みのるさんのブログがあり、本作を描かれた経緯が乗っていたのでこちらも併せてどうぞ。

poo1007.blog.fc2.com販促POPも可愛い。

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