海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

LOGAN ローガン

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X-MEN」シリーズを代表するキャラクターで、ヒュー・ジャックマンが演じるウルヴァリン/ローガンを主役に描く「ウルヴァリン」シリーズ第3作。不死身の治癒能力が失われつつあるウルヴァリンことローガンが、絶滅の危機にあるミュータントの希望となる少女を守るため、命をかけた壮絶な最後の戦いに身を投じる様を描く。ミュータントの大半が死滅した2029年。長年の激闘で疲弊し、生きる目的も失ったローガンは、アメリカとメキシコの国境付近で雇われリムジン運転手として働き、老衰したプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアを匿いながら、ひっそりと暮らしていた。そんなある日、ローガンの前にガブリエラと名乗る女性が現れ、ローラという謎めいた少女をノースダコタまで連れて行ってほしいと頼む。組織に追われているローラを図らずも保護することになったローガンは、チャールズを伴い3人で逃避行を繰り広げることになるのだが……。監督は、シリーズ前作「ウルヴァリン:SAMURAI」も手がけたジェームズ・マンゴールド。プロフェッサーX役のパトリック・スチュワート、物語の鍵を握る少女ローラ役の新星ダフネ・キーンが共演。(http://eiga.com/movie/85859/より)

9.1/10

※結末には触れていませんが、ややネタバレがあります。

X-MEN本編ではギャグキャラ的なカメオ出演が多く、活躍の場が少なかったウルヴァリンだったが、久々の主役である本作はシリーズを通して観てきたファンなら問答無用で最高傑作に挙げるであろう一本だ。
前作『ウルヴァリン:SAMURAI』では日本ロケ→小津安二郎風演出のブチ込みとやりたい放題の珍作だったので、ジェームズ・マンゴールドの続投は少し心配だったが、本作は見事ヒューの引退にふさわしい花道を用意してくれた。感謝の念にたえない。

X-MENは常に共同体の生き方を提示して見せてきた映画だった。映画では超能力として描かれているが、現実世界に置き換えれば、これらは「性格の欠点」や「肉体的なハンデ」と解釈できる。それらを互いにどうやって補い合いながら生きていくのか。「ダイバーシティ」なんて言葉が流行る前から多様性を抑制しない生き方を描いてきたシリーズだった。
本数が重なるにつれて、その生き方は次の世代に受け継がれていく。本作は、物語の軸をより未来に据えることで、その多様性をさらに推し進めた物語となったと言える。

本作の舞台であるミュータントが滅んだ世界では、「大量破壊兵器」としてミュータントを人工的に作り上げる実験が行われている。実験で生まれた子供たちは、いわばミュータントでありながらミュータントとは言えない存在だ。*1しかし、劇中のミュータントコミュニティは選民思想を持たずに迎え入れる。この姿勢は、多民族国家のあるべき姿を示しているように思えてならない。
老人は若者に持つべき道徳を教え、若者は老いた先人に手を差し伸べ、互いに寄り添い合う。そこにあるのは、家族以上に家族として機能する共同体の存在であり、この先の社会に求められる力であると感じた。

本作の主役であるヒューの、ウルヴァリンと心中する勢い(いや、シリーズは続くそうだが)の演技が凄まじいのは言わずもがな、同じくプロフェッサーを引退するパトリック・スチュワート老いた演技も切ない。
アルツハイマー気味で能力を制御できない姿と、かつてのリーダーとしての威厳を保とうとする姿が行き来する様子は「シリーズものでここまで残酷な現実を見せる必要があるのか?」と思うほどリアル。そのぶん物語中盤で食卓を囲む嬉しそうな姿が忘れられない。パトリックにも感謝の想いを捧げたい。

そして大抜擢といっても良いローラ役のダフネ・キーンの演技が凄まじい。ほとんど喋らない役のためひたすら「目」で演技をするのだが、その説得力たるや。ウルヴァリンですら死にかけたあの手術を耐えただけある精神のタフさと、年相応の子供心の演じ分けは一体どこで学んですかと聞いてみたい。というか、R指定の暴力映画にこんな子供をキリングマシーン役として出して良いのかという話だが……。

最近だと『最後の追跡』チックな、現代版西部劇(劇中で『シェーン』を流していることが示唆しているように)ともいえる本作では、X-MEN的なド派手な戦闘シーンは皆無だ。しかし、ウルヴァリンが少女ローラとのコンビネーションで戦う姿には、ただただ涙が出てしまう。

思えばウルヴァリンは常に孤独を強いられてきた男だった。彼が見つけた最後の家族がプロフェッサーを介護し、ローラと歩むことだとしたら、この映画は唯一、幸せな時間を過ごす様子を収めたフィルムなのかもしれない。

シリーズに思い入れのある人はもちろん、X-MENシリーズの前知識は不要な作品なので、ぜひ多くの人に観てもらいたい一本。

*1:本来ミュータントは自然に生まれるものだから