海辺にただようエトセトラ

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Minchanbaby a.k.a. MINT 『たぶん絶対』

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関西のラップクルー、「韻踏合組合」にも過去所属していたラッパーの通算3作目のソロアルバム。トラックは全て粗悪ビーツがプロデュース。2017年9月16日発売。

1. まさかのマサカー
2. 蛇田ニョロ
3. ただそれだけだ
4. 横取り40萬
5. ゴッドアーミー (feat. Juicy JJ, Jinmenusagi, onnen, Cherry Brown)
6. エンジのアプリオ
7. 肉喰え肉
8. たぶん絶対
9. 終末(仮) (feat. Jinmenusagi)
10. NISHIVI

9.5/10.0

この作品に蔓延する孤独感・閉塞感は何なのだろうか。もはやリスナーから理解されることすら拒否するような姿勢は、作中でひどく過激なことを言っている訳ではないのに、初めて聴いた時に思わずギョッとする感覚を覚えた。

例えば、M-2の「蛇田ニョロ」。「名前の通り俺は蛇」というライン以上にこの曲の主人公の素性は分からないまま、アイドルとのスキャンダルが悪し様に報道されるストーリーがラップで語られる。あまりに唐突な設定と説明不足さに、聞いていて不安になる。しかし情報が少ないからこそ、ミンちゃんから提示された物語が何であるかを繰り返し聞くことで獲得しようとする。この曲に限って言えば、もちろん「蛇(にまつわる差別)」について書きたかったのではない。あくまで蛇人間をモチーフとして排他的な現代社会をどれだけ皮肉り、その社会に対して自身の持つ疎外感をどのように表現しようか……。繰り返し聞くことで「後で気がつく/そしてニヤつく(©︎FORK)」わけなのだ(余談だが、この曲は形は違えど、川上弘美の名作短編『神様』のような味わいもある)。

この曲に限らず、本作はかなり構造的な曲が多い。難解、とまではいかないが歌詞カードも付属していないため曲を繰り返し聞くことで曲に内包されている真意を読み解く作業が求められる。

こうして書いていると、音楽を聞くのに負荷がかかり過ぎなように感じるかもしれないが、実のところそれは全くの逆で、むしろどんどん気軽に再生回数を重ねてしまう作品なのだ。

まずは本作をフルプロデュースした粗悪ビーツが手がける、無機質に冷たく鳴るトラップビートがものすごく気持ちいい。極力音数を減らしながらも持ち前の凶暴さは健在で、「悪い音楽を聴いている気分」が非常に心地いいのだ。

そしてもちろん主役であるミンちゃんのラップが、超絶的に上手いことも再生数に拍車をかける。韻の固さや脳にこびりつくワードチョイス、記名性の高い低音ボイスなど、その持っているスキルの全てが他のラッパーと代替不可能な魅力に溢れていることは素晴らしい。はやりのトラップビートに乗ろうとも表現者としての芯がぶれることはない。

そうして聴き続けると、序盤で抱いた「孤独感」にも自分なりの答えが出せるようになる。
この言葉の数々は、ミンちゃんが孤独を表現する上で嘘をつけない誠実さに起因すると思う。口が裂けても「明日はいい日になるよ!」なんてことを言わない。あくまで自分の孤独や諦念感を表現し、それが共感性を著しく欠くものであったとしても生のまま受け手に届ける。その「誠実さ」こそが、本作の持つ魅力なのだと思う。

ここまで力強い作品/表現者が未だに正当な評価を受けていないのは非常に腹立たしい気持ちになるが、それよりもまずはこの偉大な作品を生み出したミンちゃんに感謝したい。

ミンちゃんはライブの技術も一流で、音源以上にダウナーな雰囲気を纏わせた先日のクラブイベントも最高だった。
「ライブ中写真撮っても良いけど、俺は目を瞑らないと歌詞が飛んじゃうから、いくら撮っても目つぶったままやで」なんてユーモアを交えながらも、自分の表現に対してどこまでも忠実な姿勢は胸を打つ。ぜひ多くの人にライブに足を運んで欲しい。

・Minchanbaby "NISHIVI" (from「たぶん絶対」)