海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

今日の1曲 #5 SEEDA「不定職者」(『花と雨』収録・2006年)

全く更新してなかったこの企画、ゆるりと始められればと思います。

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個人的な考えであるが(一方否定する人も少ないだろう)、SEEDAは日本でもトップに君臨するリリックの書き手であると思う。
その凄まじさを凝縮した代表的な1曲が、この「不定職者」だ。
「ラッパー」「ミュージシャン」というには稼げていない状況を指して「不定職者」とするこの曲の主人公は、SEEDA本人というよりもかつての自分を戯画化した趣があって、エンタとしても面白い内容となっている。

早速引用していこう。

不定職者の話の終点は どいつだって金さ 欲失せるまでは
「調子どう?」とか言葉以上で 優越と劣等往復しちゃって

出だしの歌詞からかなり秀逸である。いつも話の終点が「金」に行き着いてしまう=利害関係でしか繋がれない人間関係の浅はかさを皮肉る前半と、相手の成功・失敗に関して「優越か劣等」の感情にしか振れることのない自身の虚しさを端的に表現している。

このラインの凄さはいわゆる「ハスラー」である人にしか通じない「あるあるネタ」になっているのではなく、社会に属して生活を送る“フツーの人間” にも通ずる悪感情や、人間関係の浅はかさにまで通じていることだ。

不定職者」 というアイコニックな存在を曲内に設定し、聞き手の人生を強制的に振り替えさせられる装置となっている。

足の引っ張り合い うざいもう
金に奇麗事換え 日銭取る
楽しそうだなSEEDAいれくれよ
いや おいしそうだな咬ませてくれよ ファック

「金に奇麗ごと換え 日銭取る」と搾取構造への批判をし、「おいしそうだな咬ませてくれよ ファック 」と漁夫の利狙いのハイエナにも悪態をつく。

I-Deaのプロデュース作や前作『GREEN』で当時一気にシーンからの注目を浴びた彼だからこそ経験した金がらみのトラブルがモチーフなのだろう。

その出来事で距離を置くことにした人間(たいてい怖い人だろう)もいたのだろうなと想像すると、物悲しさもよぎる。

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