海辺にただようエトセトラ

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今日の1曲 #3女性アーティストあれこれ(と、ヤナミューの面白さ)

ワンダーウーマン」タイアップにまつわる炎上

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今や押しも押されもせぬトップアイドル、乃木坂46の新曲がここのところネットで話題だ。
というのも、その新曲「女は一人じゃ眠れない」は、DCコミック原作のアメコミ映画「ワンダーウーマン」の日本版主題歌に起用されているが、作品の主旨ともはや真逆の曲となってしまっているからだ。

乃木坂46「女は一人じゃ眠れない」

傑作映画『モンスター』も手がけた女性監督、パティ・ジェンキンスがメガホンを取った本作は、全世界の興行収入が800億円を超える大ヒット映画。原作のキャラクターは、当時の学会の「女人禁制」などをはじめとする、女性の社会進出妨害に異を唱える「女性解放」の象徴として生まれたものだ(詳細はこちらへ)。
それを念頭に本楽曲を聴くと、「女は一人じゃ眠れない」=「女は恋人がいないと生きていけない」とも取れるタイトルが付けられたこの歌は、むしろ炎上目的としか思えないほどに真逆の意図が込められている。
上記リンクのMVを見ると、衣装やセットのビジュアルだけワンダーウーマンに寄せていることが、より一層陳腐さを加速させている。

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 ※画像はリアルサウンドより。歌詞については一切触れない

 

「プロデューサーの顔」が見えざるを得ないアイドル楽曲

しかし抑揚のない合唱スタイルが魅力に乏しい彼女たちに落ち度はない。ここ日本では知名度の低いキャラだけに、配給会社の担当社員がアメコミ映画ファン以外も取り入れるべく、大衆性の高い乃木坂46を起用したことも想像にかたくない。
批判されるべきはいい加減な仕事をした秋元康であることは、誰の目にも明らかだ。

以前も、他のグループの歌詞が「女性蔑視だ」と炎上した経験のある秋元康だが、これらの炎上の元となっている嫌悪感は「おっさんの一方的な(としか捉えようがない)女性観を歌詞にして、幼いアイドルに歌わせているグロテクスさ」に起因していると思う。

いまやアイドルについて知る際は、バックのブレーンがどんな人たちで、どういった意図でそのアイドルを世に送り出しているのかもセットで知る構造になっている。そのチームが掲げたアイドル像や世界観を、いかにして築き上げ提示しているのかでコンテンツの魅力が変わってくる。

BABYMETALやPerfumeといった、楽曲の面でもクオリティが担保されているアイドルたちを見ると、秋元康率いるアイドルたちは(楽曲面に限って言うのであれば)そういった“チーム感”が薄い印象がある。だからこそ、チグハグな意図の楽曲をリリースして炎上を呼んでしまうのだ。

※おそらく48や46グループは、楽曲面よりもテレビ出演などのバラエティ力(?)などに魅力があり、そこに「チーム感」があるのだと推察するが、あくまで楽曲単位で見ると魅力に乏しい、という意図で執筆しています。

 

作詞を手がける女性シンガーたち

ならば自らが作詞を手がける女性シンガーはどうなのだろうか。僕の知っている範囲では有名無名を問わず、非常にクオリティの高い楽曲が生まれている。

別に乃木坂の楽曲と対比する意図はないが、個人的に魅力的に感じたアーティストを、楽曲とともに複数曲紹介したい。

藤原さくら 「かわいい」

月9にも主演した若手シンガーソングライター。Ovallのメンバーがバックバンドでツアーに同行・楽曲によってはプロデュースもしていたので興味がわき、聞いてみたが非常に良い曲だ。

20歳そこそことは思えないスモーキーな声と、ありきたりな分エモーショナルに歌い上げる歌詞の、サビへの展開が気持ち良い。どこまで自覚的なのかわからないが、「少女」と「大人」を行き来する世界観を、歌詞と声で構築するセンスには脱帽だ。

IU Feat. G-DragonPalette

続いてはガールズグループの多い韓国では珍しいソロ女性アイドル、IUの楽曲。Wikipediaによれば中学3年でデビューをして以来一線で活躍しているが、本作は作詞作曲を自身で手がけている。

18歳の時ブレイクのきっかけとなった「Good Day」の頃と、25歳になった今の自分の心境の移り変わり(あるいは変わらない部分)を歌う歌詞が、現行の海外R&Bに引けを取らないハイクオリティなトラックに溶け込み、歌唱力も相まってこれまでの彼女を知らない人も引き込む力がある。

サビで「I’m 25」と、「今、この瞬間」を切り取って歌いきってしまう姿勢は、自分がアイドルであることの覚悟の表れなのでは、と感じる。甘さの中にも気概が溢れる一曲だ。

・泉まくら「通学路」


あとは変化球として、女性ラッパー泉まくらの楽曲を。学生カップルの彼女の目線から語られる歌詞は、彼氏への優しさに対する幾重にもなる複雑な想いを歌詞に落とし込んでいて、男が聴くと刺さる部分がかなりある。

歌と、ポエトリーリディングと、ラップの境界線が曖昧になった歌唱法は、独自性という意味では正しくヒップホップだと感じるし、メジャーに躍り出ている何人かの女性ラッパーよりも表現力のあるアーティストだと思う。

ようやく本題。「ヤナミュー」のエモさ

上記で挙げた楽曲がなぜ魅力的なのか。それはみな多かれ少なかれ「自身の経験や感情から発せられた」ものから出ているからだと思う(あるいは「“そう思わせる演出力”に長けている」と言っても良いが)。

ならばすべての女性アイドル・アーティストは自作しないといけないのか、と言われればもちろんそうではない。先述したようにPefumeやBABYMETALは上手いバランスで成り立っていると感じる。

完全に個人の感想だが、その系譜に連なるアイドルを先日Spotifyで偶然見つけたのだ。
というわけで、ようやく本題! ヤナミューこと、「ヤなことそっとミュート」というアイドルについて紹介したい。

まずは楽曲を聴いてもらいたい。

・ヤなことそっとミュート「ホロスコープ


サウンドだけ取り出して聞けば、完全に90年代のオルタナグランジを継承した曲なのでびっくりした。それぞれの歌唱力も申し分ないし、声のキャラ立ちも明確だ。そんでもって何よりも歌詞! いちいち引用はしないが、アイドルという「その瞬間を燃やす生き様」を切なく切り取った言葉が聞く側の胸を刺す……。アイドルに詳しくなかったが、問答無用で「推さざるを得ない」と思ってしまった。

音楽好きの間では度々名前の挙がる「BELLRING少女ハート」の楽曲制作チームをバックに結成されたヤナミューは、名前を見ると現実逃避的な、ある意味では「アイドル(に熱狂する構図)そのもの」をメタ化したようなスタンスも感じるが、その肯定感にも救われる気分がある。

やはり(運営陣含む)彼女たちの魅力は、陳腐な表現になってしまうが「エモさ」に尽きる。

先述のホロスコープが顕著だが、疾走感溢れるナンバーでも健在だ。

・ヤなことそっとミュート「Any

 


こちらは配信ではすでにリリースされているEPからのリードソング。

これまでの楽曲と比べると抜け感のあるロックナンバーだが、様々な作家と仕事をすることで音楽性に幅や柔軟さを持たせられるのも、アイドルの強みだろう。

いわゆる「地下ドル」は、飛び道具めいた歌い方やパフォーマンスで他グループと差別化をつけるものだと思っていたが、彼女たちは歌も正統派だし王道の道を進んで行くのではないだろうか。

近頃アイドルめいた売り方が目立つロックバンドが増えていて辟易するが、逆にロックの矜持とサウンドを持ったアイドルの方がよほど真っ当に見える気もする。今後の活躍に期待しています!

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