海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

宮部みゆき『ペテロの葬列』

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宮部みゆきの人気シリーズ『杉村三郎シリーズ』の第3作目。単行本は2013年12月20日発売。2016年4月8日に文庫化。

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8.5/10

『誰か』『名もなき毒』共にハードカバーで追っていた好きなシリーズだったが、3作目の本作のあまりの賛否両論ぶりに手に取るのをためらい(ネタバレが嫌なのでレビューは読んでいなかった)、文庫落ちになったタイミングでようやく読了。ドラマはすべて未鑑賞です。

賛否の否の方は「物語の質」に対する言及ではなく物語の着地点についてなのだろう。確かにこのシリーズに愛着があればあるほど衝撃が大きいラストである(まぁでも『今夜は眠れない』しかり、シリーズものでとんでもないオチを読者に喰らわすのは、宮部みゆきの得意技よね…)。

しかし一方で僕が悔しいのが、ソロモンの偽証の文庫本の書き下ろし短編で若干のネタバレがあり、こっちはすでに読了済みだったので少し衝撃が薄らいだことだ。だけどもそれを補って余りある、あの人物の車中での最後の一言。思い出すだけでもしんどい。

肝心の物語も緻密なプロットや張り巡らされた伏線はもはや伝統芸能といった具合で、脳に訪れるのはもはや快楽。

宮部みゆきが得意とする「日常に潜む悪意」もイヤ感満載で描かれていて、ちょっとのことで踏み外してしまう人間の哀しさを真摯な筆致で描いている。

アマゾンのレビューで「大したことのない犯罪(悪)を大げさに書くのがつまらない」といった指摘があったけど、普通の暮らしをしている大半の社会人にとっては「些細なことで周囲の人や自分が狂ってしまう可能性」に気付かされるので、大犯罪をモチーフにするよりも、こういったテーマのほうが真に迫っていて怖い(し、面白い)と思うけどね~。