海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

人間の時間/Human, Space, Time and Human

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「嘆きのピエタ」「メビウス」などで知られる韓国の鬼才キム・ギドクによるハードファンタジー。恋人とともに旅行を楽しむ女性、有名な議員とその息子、そして謎の老人と、さまざまな人びとを乗せ、船は出航する。かつては軍艦でありながら退役後はクルーズ船となったその船が大海原へと出た頃、開放的になった乗客たちは酒、ドラック、セックスと、さまざまな顔を見せていった。狂乱の後、疲れ果てて眠りについた彼らが目を覚ますと、船は霧に包まれた未知の空間に突入していた。何が起こったのか理解できない現実を前に呆然とする人びと。やがて乗客たちは生き残りをかけた悲劇的な事件を次々と起こしていく。主人公イヴ役を藤井美菜、アダム役をチャン・グンソク、イヴの彼氏役をオダギリジョーが演じるほか、アン・ソンギ、イ・ソンジェらが顔をそろえる。2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭では「人間、空間、時間、そして人間(仮題)」のタイトルで上映。(https://eiga.com/movie/90751/より)

無採点

キム・ギドクの作品なのでそりゃ人を選ぶのだが、それにしても壮絶かつ超絶な展開が待ち構えているトンデモ映画であった。

この映画にチャン・グンソクオダギリジョーが揃ったこと自体が何らかのエラーやバグと言ってもいい状況で、特に「ウナギ」の方々は「グンちゃんが出るなら……」と安易に足を運ばず、観るのなら心して観賞してほしいと思う。*1

閑話休題。本作そのものに言及すると、彼の作品の中でも最近の作品の流れを汲んだ、「大げさな設定の物語そのものに、寓意的なメッセージを込めている」フィルム*2だ。そんな系譜の作品でも最も陰惨な暴力描写が多くて、正直本編の前半は直視するのがしんどかった。

本作の主人公である藤井美菜演じる女性の数々の受難は、おそらく監督自身の行いがリンクしたものだろう。彼の作品は少なからず観賞した身としては、「自分には甘いな」としか言えない内容に思えた。
パンフレットの中で「善悪を超えた次元(世界)を描きたかった」と答えているが、罪にまみれた人間が棚上げするなよ!と全力で突っ込みたい。

他にも「インディー出身の監督は韓国映画界では黙殺されがち」などの発言があったが、世界の名だたる映画賞で受賞実績のある権威とも言える存在だったからこそ、今までのハラスメント案件も被害者が泣き寝入りしていたのだ。
自分が持っている「(映画界からの追放という)被害者意識」を排除し、被害者へ寄り添う気持ちがないのであれば、本作が韓国で未だに上映されていない現実を乗り越えるのは無理だろう。

キム・ギドク作品はいくつかフェイバリットもあるだけに、むしろ訴訟を起こしている現状は、まんま山口敬之そのもので残念だ。

*1:現に僕が観賞した回にもそういった方々が集まり、上映後の凍った空気は凄まじかった。

*2:他には『NET』や『殺されたミンジュ』など