海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』(早川書房)/Colson Whitehead - Underground Railroad

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2017年12月6日に日本語訳出版。

ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞受賞作
アメリカ南部の農園で、苦しい生活を送る奴隷の少女コーラ。あるとき、仲間の少年に誘われて、意を決して逃亡を試みる。地下をひそかに走る鉄道に乗り、ひとに助けられ、また裏切られながら、自由が待つという北をめざす――。世界的ベストセラーついに刊行!(https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013729/より)

8.8/10.0

19世紀のまだ黒人奴隷が当たり前にいたアメリカでは、有志によって黒人の逃亡を手助けしていた組織がいた。その組織の名称が「地下鉄道」であった。
そんな歴史を「その組織が本当の“地下鉄道”を走らせ黒人解放に尽力していたら?」という発想で編まれた長編小説が本書『地下鉄道』だ。

このようなSF的な設定を大胆に導入することで、アメリカに根強く残る人種差別を浮き彫りしていく手法は見事な反面、もっとも虐げられていたであろう「黒人女性」が主人公であるために読んでいてあまりの凄惨さにしんどくなることも多々あった。これだけ人間は残酷になれるのだな、と。

本書の構成も面白い。基本的な章立ては主人公コーラが逃亡にて巡っていくアメリカの地名が章タイトルになるのだけれど、必ず合間にインタールード的に脇役たち視点の物語が挟まれる。
彼らがどんな心境で、どの場所で何をしていたかが10ページほどの短いエピソードで語られるのだがそれが本編への最適な補強となっている。このあたり非常に映画的でもあるので名匠バリー・ジェンキンスには心から期待をしたいと思う。*1

一方でやや難解な文体となっている翻訳は少し人を選ぶと思う。*2
おそらく意図的に、常用外の漢字がルビが振られず多発するので(例えば「玉蜀黍*3」って読めます?)、検索しては読み方を探したことが5回ほどあった。まぁこちらの勉強不足と言われればそれまでですが……。

 

本作で描かれた痛烈な差別の数々は「海の向こうの出来事」と割り切れる人もいるのだろう。しかし、これからより多民族国家となっていくであろう、排外的な思想が根底にある我が国においては決して他人事では済まされないのではないだろうか。

*1:特に、中盤で行うコーラの「奇妙な仕事」がどう映像化されるかとても楽しみ

*2:原書の文体も当時=19世紀を意識した、格式高い文章だったと推察するが

*3:とうもろこし