海辺にただようエトセトラ

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KREVA『AFTERMIXTAPE』

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ラッパー、トラックメーカーであるKREVAの通算8枚目にして初の「ミックステープ」。2019年9月18日リリース。

01. MIX / TAPE
02. 敵がいない国
03. One feat. JQ from Nulbarich
04. S.O.S.が出る前に
05. アイソレーター
06. リアルドクターK
07. 人生
08. Don't Stop Y'all, Rock Rock Y'all
09. もしかしない
10. 無煙狼煙
11. それとこれとは話がべつ! feat. 宇多丸, 小林賢太郎
12. 君の愛 Bring Me To Life

9.2/10.0

ソロデビュー15周年を記念し、連続リリースを行なってきたクレバだが、これまでの代表曲をバンドでアレンジしたベストアルバムがピンとこなかった。

というのも、個人的にクレバに求めているのが「シンプルなビート」と「タイトなラップ」にあるので、バンドサウンドに昇華された楽曲群は、華やかだがタイトとは言い難いトラックその上に乗っかるラップもしかり……だったためだ。*1

そんな感想を抱いたクレバファンが他にいるのかはさておき、連続リリースのフィナーレとなる本作は、そんな僕の「求めていたクレバ」が詰まった会心の一作だ。

いくつかネット上のインタビューを流し読むと、本作はあくまでも「オリジナルアルバム」でなく、「ミックステープ」とのこと。
なるほどそう言われると本作は、がっつりと構成を練りこんだこれまでの作品と違ってラフな構成に聞こえる。豪奢というよりもシンプルさが際立つビートの上に乗るクレバのラップもあっけらかんとしている。

特にグライム系の暴力的なビートとファストラップが目(耳)を引くM-5が象徴的だ。いつも「彼自身のリスナー」に向けられたラップが、この曲では「その外」に向けて放たれている。

ただ正直に生きている奴らが損する世の中は 嫌

どうにもこうにも良くない方に向かいそうこのままじゃ なぁ

という強烈なフレーズをサビに置き、マナーの欠如した人間をユーモアを交えながらも攻撃していくスタイルには、結構驚かされる。

しかし一方で本作を聞いていると不思議とソロデビュー作でありリスナーからの支持も高い『新人クレバ』のころが思い出させられる。割と直接的な表現を使っていた、キックの頃のヤンキー体質が見え隠れしていた初期のラップの雰囲気を感じるのだ。

レゲエに(当時珍しかった)歌ものも収録され、幅広い作風だった『新人クレバ』とどことなく鏡合わせな印象がある本作は、奇しくも15年という長いキャリアを歩んだクレバというラッパーの「原点回帰」とも言えるかもしれない。

M-2 敵がいない国

 M-3 One feat. JQ from Nulbarich

このご時世にかたくなにショートバージョンの曲しか上げないビクターが恐ろしい。

 

*1:まぁライブであのグルーヴ感を感じるとまた違う魅力を感じるのだろうけど。