海辺にただようエトセトラ

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今日の1曲 #10 TWICE『HAPPY HAPPY』(2019年)

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韓国を拠点にグローバルで活動する女性グループ、TWICEの日本での4枚目のシングル。2019年7月17日発売。

8.8/10.0

基本的に新しい感覚を持ち込んだ音楽が好きだ。

それはサウンドであったり、歌の斬新な抑揚だったり、歌詞でもある。
そう考えると、TWICEのこの曲には一見(一聴)すると目新しさはないかもしれない。明るく開放的なギターとハンドクラップで幕をあける、サマーチューンでありラブソングという印象だ。*1

しかし、よくよく歌詞を読んでいくと「これは直球のラブソングなのだろうか?」という疑問が頭をよぎる。この歌で歌われる「キミ」は、もちろん恋人としても読み解くことができるが、友人や家族、それ以外の大切な相手としても受け取ることができる。
というのも、この曲では「愛している」や「好き」という言葉が出てこないのだ。(「Really really Like You」っていうフフレーズはあるけど。)

試しに、以下に1stバースの歌詞を引用してみる。

感じてる運命のGimmic
きみの笑顔 it’s just magic
ほら会った瞬間
Viva 最高になれる

意地っ張りも嘘みたいに
私が私でいられるの
Only Oneの居場所
やっぱ Really really like you

次から次へと夢を語って
理想の世界へ近づきたいよ
トキメキが止まらない

深読み……というか、邪推に近いかもしれないが、この曲にある言葉たちの距離を広げていくと、昨今の日韓関係に言及する意味を持っていると思う。

特にこの国においては、TWICEのメインのファン層はティーンの女の子だ。
韓国を拠点に活動する彼女たちを応援することに、胸中が複雑になっている人もいるだろうと察する。書店に向かうと一部の棚では「嫌韓」をうたう本が置かれていたり、ネットニュースでの隣国バッシングを目にしたりする光景ははっきり言って異常だ。

そういった背景を踏まえてこの曲を聞き返すと、「私と君」という「個と個」の関係性の重要さを歌う彼女たちの姿勢に希望の筋が見えてくる。

I feel happy happy happy (You You You)
会えてよかった
どんな時でも(どんな時でも)
なにが起きても I wanna be with you
Happy happy happy (You You You)
想像できる
描いた未来を 描いた未来を
引き寄せられる I’ve gotta be with you

I’ll be happy happy happy (You You You)
信じているよ何年先も 何十年先も
I wanna be with you
Happy happy happy (You You You)
なんでもできるどんな困難も(どんな困難も)
乗り越えられる I’ve gotta be with you 

今は「分断の時代」であると言われている。
経済的に恵まれているとは言い難い世の中で、考えや生まれ、民族的ルーツを異にするものを排除し、不要なナショナリズムが煽られているのは、どの国にも見られる光景だろう。

「国家間の政治的背景と文化交流は別」と言い切ればそれまでだが、人間はそんなあっさり分けられない(僕個人としては分けているが)。ましてや成人前の子供たちにとっては、辛い思いがあるのではないだろうか。

日韓台のメンバーという構成で、そういった境界を乗り越えてきた(いや、今も戦っている)彼女たちが「描いた未来を想像できる」と歌うからこそ、この曲の歌詞の説得力が増す。30過ぎた男が踏み込んでいいかはためらわれる文化圏だが、意識的にも、無意識的にもこの曲で励まされる人たちが増えるように祈りたい。

そこまで思い入れのないグループなんだけど、今年の活動は目覚ましいので引き続き追ってみたい。

 

【補足】

9月では韓国で新譜をリリースした彼女たち。
メイン曲となる「Feel Special」でも、この曲に通ずる思想が歌詞に込められている。

下記リンクの記事が非常に素晴らしいので、ファンでない人こそ読んでほしい。

*1:あと、オタク的な視点だとコール映えするな、とか。