海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

イエスタデイ/YESTERDAY

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トレインスポッティング」「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイル監督と「ラブ・アクチュアリー」の脚本家リチャード・カーティスがタッグを組み、「ザ・ビートルズ」の名曲の数々に乗せて描くコメディドラマ。イギリスの小さな海辺の町で暮らすシンガーソングライターのジャックは、幼なじみの親友エリーから献身的に支えられているものの全く売れず、音楽で有名になる夢を諦めかけていた。そんなある日、世界規模の瞬間的な停電が発生し、ジャックは交通事故で昏睡状態に陥ってしまう。目を覚ますとそこは、史上最も有名なはずのバンド「ザ・ビートルズ」が存在しない世界になっていた。彼らの名曲を覚えているのは世界でただひとり、ジャックだけで……。イギリスの人気テレビドラマ「イーストエンダーズ」のヒメーシュ・パテルが主演を務め、「マンマ・ミーア! ヒア・ウィ・ゴー」のリリー・ジェームズ、「ゴーストバスターズ」のケイト・マッキノンが共演。シンガーソングライターのエド・シーランが本人役で出演する。(https://eiga.com/movie/90371/より)

9.7/10.0

非常に万人ウケする、去年で言うところの『ボヘミアン・ラプソディ』枠と言える映画だ。言ってしまえばデートにふさわしい映画で、僕は「連れ合いを気まずくさせない」映画が大好きだ。*1

ビートルズに明るくなくても、聞いたことのある曲のオンパレードで楽しめるだろうし、映画の要所要所ではファンになら伝わるであろうイースターエッグも散りばめられている(っぽい)。*2

そんな真っ当な娯楽作品でもある一方で、この映画は現代の音楽ビジネスのあり方についてもユーモアを交えて釘を刺していて、そこが痛快だ。

エド・シーラン(本物)に見初められてワールドツアーの前座を務めることになり、持ち曲の素晴らしさにスターの階段を登っていく主人公のジャック。
彼はユニバーサルのマネージャー(A&R?)=デブラから「あんた、曲はいいけどそのダサいルックスなんとかならないの?」と言われたり、マーケティング担当者30〜40人ほどが押しかけてくる戦略会議でも、売れるためにジャック本人の意向は丸ごとスルーされたりなど、シーン一つ一つはギャグとして描かれるのだが、拝金主義的なメジャーのレコード会社の姿勢には辟易した。

しかし、そんな映画を配給しているのは天下のユニバーサル・ピクチャー。こういう批評性や皮肉を、しがらみなく大作にもブチ込める、欧米の文化の懐の広さには感服する*3

そして「懐の広さ」という意味では、本作に出てくるエド・シーランの右に出る漢はいない、と確信できる。

予告でもあるシーンだが、ジャンキーでちょっと抜けてるジャックの付き人が「あんたのファンだけど、ラップは下手だからやめたほうがいいぜ」と言うシーンがある。
いくら劇中のやり取りとはいえ、いま世界で一番聞かれているアーティスト(※Spotifyリスナー数世界1位)が、こんな失礼なやり取りを受け入れて演技していたのは結構びっくりした。確かにエド・シーランのラップは変に早口なだけでグルーブが皆無なんだけど

さらに物語の中盤では、ジャックの曲作りの才能を試すために「即興で曲を作って勝負する」というシーンもある。もちろんジャックはビートルズの曲を持ち込んで挑むわけなんだけど、いくらビートルズが偉大とはいえ、今の音楽ビジネスの頂点にいる人が勝ち負けをつけるシーンのある映画に出ることには心から尊敬した。
スターの器のでかさだったり、彼の気取らない魅力的な人間性を見た気がしたのだ。*4

……記事後半はまさかのエド・シーラン賞賛にだけ終始してしまったが、映画のストーリーそのものも大変面白く、物語も程よく伏線を張りながらも意外な展開を迎えていくので、観ていて純粋に先が気になる。
予告などを見るとイロモノ感のぬぐえない作品だが、ダニー・ボイル監督とリチャード・カーティス脚本のタッグだ。一級品のエンタメが体感できるのは間違いない。

↑劇中で使われた歌と、元ネタのビートルズの曲が収録されたプレイリスト。
サブスクが当たり前のこのご時世、すぐにこういう形で音楽に触れられるのは素晴らしい。

*1:それ以上に、刺激物みたいな映画も大好きなんだけど。

*2:まぁそのように多くの人を魅了する分、『ジョーカー』『ボヘミアン〜』よろしくしたり顔で難癖をつけたがる人を生む映画でもあるんだけど。

*3:と、思う一方でイギリスからのアメリカへの皮肉なのかも?と勘ぐってみたり。「俺たちのビートルズという財産を、アメリカは単なる金儲けの道具にしてるだろ?」的な。

*4:この映画自体「エド・シーランのプロモーションじゃね?」とも思ったが、エド・シーランってワーナー所属でユニバーサルじゃないし……。