海辺にただようエトセトラ

音楽や映画、本の感想をつらつらと。

今村昌弘『屍人荘の殺人』(創元社文庫)

 

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*第1位『このミステリーがすごい! 2018年版』国内編 
*第1位〈週刊文春〉2017年ミステリーベスト10/国内部門
*第1位『2018本格ミステリ・ベスト10』国内篇
*第18回本格ミステリ大賞〔小説部門〕受賞作

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、いわくつきの映画研究会の夏合宿に参加するため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!! 究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り、謎を解き明かせるか?! 奇想と本格が見事に融合する選考員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作。(http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488025557より)

7.0/10.0

文庫化を機に手に取り読了。Amazonのレビューなどを眺めると見事に真っ二つ(というか批判の方が多め)の本作だが、実際に読んでみると手放しで絶賛できないにせよ楽しんで読めた一冊。

ミステリ作品っていつか「卒業」しがちな小説ジャンル(音楽でいうとメロコア的な)*1なので、こうした話題作がかつてミステリを読んでいた人をカムバックさせる起爆剤ともなりうるし、もちろん新たにジャンルに触れる若い世代への呼び水ともなる。なので目の肥えたミステリ読者の強烈な非難は一旦ミュートして読んでもらうのがいいと思う。

※以降で、結末には触れませんが一部物語の展開に触れます。
(個人的にはネタバレの範囲外と思いますが……。気にされる方は注意を。)
 

本作の一番の語りどころはやはり「クローズドサークルもの」としての新しさだと思う。
いわゆる「クローズド〜」は、「嵐の孤島」といった「通信・交通手段を失った場所」という閉ざされた世界で繰り広げられるミステリを指すが、本作はなんとゾンビにペンションが囲まれてしまい「陸の孤島」が完成し、殺人事件が起きる

ということで「ゾンビもの」と「本格ミステリ」の両ジャンルにとってはコッテコテの設定がミックスされつつも、全く新しい設定のものが出来上がるという斬新さは結構痺れる。

しかもゾンビであるヒントは、本書のタイトルを見ると分かるという演出も憎い。
ミステリって奇想天外なトリックも面白さの一つだけども、こういう「屍人=ゾンビ」という「鋭い人ならわかりそうな謎」を作れるバランス感覚も重要なので、作者のミステリ作家としての素質は相当高いのだと思う。*2

本書の批判で多いのが「ラノベっぽい」というものだが、逆にミステリってほとんどがラノベじゃないの? というのが僕の見解なのであまりそこは気にならない。し、そろそろ「ラノベが小説の中でも下位ジャンル」みたいな先入観はやめたほうがいいと思う。
確かに、一部のヒロインの描写が「ラノベ」というよりは「深夜アニメ」のそれが感じるところはしんどかったけど、出版不況の世の中でこれからのミステリはいかにラノベと共存していくかが大事な活路だと思うので、そんな指摘をしているとジャンルを衰退させるだけじゃないかなと。

あとは「ミステリと呼ぶには(ゾンビは)非現実的」みたいな指摘もあったけど、それ言ったら都合よくペンションが外の世界と断絶すること自体ファンタジーじゃねーか!となるし。
というか、ゾンビものミステリといえば国内ミステリベストには絶対挙がる傑作『生ける屍の死』があるじゃねーか!と。*3

ただ、純粋に読み物としてのツッコミどころが多いのも事実で、オチに向かって急速に話が畳まれている感覚は否めない。
特に「とある人物のその後の描写が雑すぎる点」や、「動機の説得力の薄さ」はデビュー作とはいえもう少し編集サイドにテコ入れして欲しかった。(多分前者はシリーズ化した本作の続編以降に引っ張っていくのだろうけども)

コミカライズに映画化も決まったことで、多くの人の目に触れる分批判的な意見も出てくるかもしれないけれど、是非とも今後とも設定が面白いミステリを書いていってもらいたい。

*1:もちろん、私感に基づく偏見です。

*2:誰目線だよって話ですが

*3:おそらく作者も本作を「本格ミステリ」を名乗ることに抵抗があるのは、序盤の「カレーうどん」のくだりでメタ的に表していると思ったので、あまり目くじらを立てても結局結論は「好みではなかった」というだけでしょ……となってしまう。